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LoveLaboratoryFAnetOnline Novels 私の恋愛ストーリー入選作品一覧
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タクシー移動、おしゃれな店、一流ホテル、彼との2日間
 その朝、迷うことなく上りの新幹線に乗った。会えなくてもいいと思った。東京の友人宅に泊めてもらう話を取りつけ、「観光のつもり」と自分に言い聞かせて出かけた。もちろん、「もしかして」とは思っていたし、たとえ彼が来なかったとしても、約束を守ったという自負心を持ちたかった。
 昼頃、東京駅に着いて、どの電車に乗ってどこへ行こうかと駅の構内でガイドブックを見ていると、「もしかして」が現実となった。携帯に登録のない番号が鳴った。出ると、待ち望んでいた声が聞こえてきた。
「今どこにいるの?」という問いかけに、「東京」と答えることが、誇らしかった。その電話で、時間と場所を指定された。
「お久しぶりです」と、いいながら待ち合わせのカフェで再会した。彼は顔が知られているわけではないので芸能人のように騒がれることはないけれど、こんなにすごい人がここに座っているのよ!と私は叫びたい気持ちになった。私は、彼の地位とお金に惚れていたのだ。
 彼は、東京を案内してくれた。渋谷、表参道、お台場まで行った。移動はすべてタクシーだった。
 夕食をとって二件目の店で飲み始めた頃には、午後11時を過ぎていた。電車のあるうちに友人宅に向かいたかった私を見透かすように、彼が「今日はどうするの?」とたずねてきた。「友達の…」と言う私をさえぎるように、「ホテルのツインの部屋を取って、一緒に泊まらない?」と提案してきた。ツインだろうとなんだろうと、泊まればどうなるかはわかっていた。
「いいですよ」と笑って答えた。私は、「NO」とは言えなかった。
 この日の会話で、彼が既婚者ということがわかっていた。彼の地位とお金に惚れたと言ったが、やはり彼という人間に恋をしていたのだと思う。そう思わないと、この時の行動に自分で説明がつけられない。
 お盆の週末で、ホテルはどこも満室だった。唯一とれたシングルルームに二人で泊まることになった。彼の前では楽しく優雅な表情でいたいと思い、そう努めていたが、内心は相当緊張していた。蓮っ葉な女のようにふるまいながらも、私は、まだ男を知らない19歳だった。
 その夜、コトは想像通りに進み、私は処女ではなくなった。
 隣で軽い鼾をたてて眠る彼を見ながら、特に感慨もなく、幸せを感じるでもなく、かといって後悔に見舞われるでもない、そんな自分に戸惑っていた。このわけのわからない感情は何なのだろう? そう考えるのも面倒になったが、それでも一向に眠気を催さず、天井を見続けて夜を明かした。翌日も、彼は都内を案内してくれ、夜は別のホテルのダブルルームに泊まった。
 相変わらずのタクシー移動、おしゃれな店の食事、一流ホテルの宿泊、ラウンジで飲む一杯1500円もするカクテル、私は、それらすべてにワクワクした。彼も変わらず優しくておもしろかった。にもかかわらず、1日目には楽しかったことが、きょうはなんとなくしらけていた。モヤモヤした気分がつきまとってくる。それは、見るもの、聞くものに慣れたからでも興味を失ったからでもなく、何かほかのことが原因のように思えた。
 モヤモヤの原因がわからないまま、再び彼と寝た。そして、ますますしらけた気分とモヤモヤ感を強く感じるようになった。あれはいったい何だったのか。今もよくわからない。
 ともあれ、普段体験できないことを体験しているという高揚感で火照っていた心は、徐々に冷静さを取り戻していった。そして、「彼には奥さんがいる」という事実の重さを自覚しはじめた。
 私の耳元で、「好きだよ」とささやくこの人は、N.Y.の家に帰れば奥さんにも同じ事をしているのだと思うと、いたたまれない気持ちになっていった。この2日間で、私が完璧に彼にハマったことは否定できなかった。「結婚したい」という気持ちが生半可でなく強くなっていた。
 3日目の朝、彼が買ってくれたチケットで地元に帰った。東京にいた二日間はとても楽しかった。形容しがたい複雑な心境が残った以外は。
彼の着信音を待ちわびる日々
 彼は、「また連絡するよ」と言ってくれたが、N.Y.の彼から連絡がくるとは思えなかった。メールアドレスを交換していたから、電話より気軽に連絡はできる。でも、しなかった。厚かましい、鬱陶しい女だと思われたくなかった。
 すぐ会えるような距離でないだけに余計恋しくて、来る日も来る日も彼のことを考えていた。彼の番号に設定した着信音が鳴るのを待って、携帯電話を片時も離さず手元に置いていた。
 人を一途に想うことが、こんなに苦しいとは思わなかった。恋しさと苦しさで一か月も過ごすと、精神が擦り切れてきた。でも、ゼロではない可能性を信じて待つしかなかった。
 この時、私は、彼の『キープ』だと考え始めていた。
 あまりに苦しくて、友人の一人にすべてを打ち明けた。私を理解して、ねぎらい、励ましてほしかった。私の話を聞き終わると、「へぇ〜、不倫してるんだ」と、彼女はまず言った。
 不倫。
 今まで、自分の立場を『キープ』と考えていたため、その言葉に行きつかなかったが、妻子ある人と性を交わせば、それが世間一般にいう『不倫』ということになるだろう。
「好きになった人にたまたま奥さんがいただけ」というテレビで見たOLの発言。
「奥さんと別れてよ!私と結婚してよ!」と泣き叫ぶドラマのヒロイン。
 過去、鼻で笑い軽蔑していたこれらの台詞が、にわかに自分の身にのしかかってきて、彼女達たちの気持ちが痛いほどに理解できた。
 『不倫』を大袈裟に考える必要はないのだ。これだけ世間に普及して、認知されていると言ってもいいぐらい、一般的なものとなってきている。
 そう、まさに、『好きになった人にたまたま奥さんがいただけ』。何回も何回も、この考えを頭に叩き込もうしたが、結局無理だということを思い知った。
 彼への結婚願望を捨てることは、たやすかった。なぜ縛られていたのかと思うほどに簡単で、それ以来、随分楽になった。好きだという気持ちは抱き続けていたが、それは恋愛感情というより、憧れに近くなったように思う。 相手が結婚していても、恋愛はできる。しかし相手が結婚していたら、その人と結婚することはできないのだ。私は、彼と結婚したいという願望を持ったから、こんなにも苦しむことになった。そんな単純なことに、今さらながら気がついた。
 東京で彼と別れてから、2か月余りが過ぎていた。
最初で最後のメールを書こう
 11月に入ったある日、彼からの着信音が初めて鳴った。
「2日後にそっちに行く予定だから会えないか」と、自己チューで唐突な誘いだったが、私は二つ返事で了解した。待ち合わせは彼が宿泊するホテルのロビー、食事は彼が宿泊するホテルの最上階。彼は私を部屋に誘い込むと、泊まっていくように言った。私も、そのつもりで来ていた。ためらうことなく応じて、彼と寝た。
 翌朝、チェックアウトに付き合った後、電車の改札まで一緒に歩いていくと、彼は突然、
「昨日はどうもありがとう。楽しかったよ。また連絡する。じゃあね」と言って、タクシー乗り場のほうに歩いていってしまった。ひとり残された私は、そのまま家に帰った。
 夜のお相手のためだけに呼ばれたのは明らかだった。
 それでも、その時は幸福感でいっぱいだった。うれしかった。彼が私を覚えていてくれたことが、日本に帰ってきた時に私に会いたいと思ってくれたことが、日本滞在のわずかな時間の一部を私に割いてくれたことが、うれしかった。
 その後も、当然のように連絡はなかった。寂しいのはもちろんだったが、幾分慣れてきていた。家の時計のひとつをN.Y.時間にセットして、彼が今、何をやっているか、想像をめぐらせたりした。
 彼以外に好きな人ができることはなかった。彼氏をつくることで、彼を忘れ去ろうと思った時期もあったが、うまくいかなかった。
 1月1日午前0時04分。過去一度しか鳴ったことのない着信音。彼からだった。驚いて震える手で電話をとると、のんきな彼の声が聞こえてきた。
 数日後に会う約束をした。新しい年の幕開けに電話をした相手が私だという、その彼の気持ちがうれしかった。本当に本当に、本当にうれしくて、うれしくてうれしくて、うれしかった。
 約束通り彼と会った。待ち合わせから別れるまでは、11月に会ったときを再現するかのように寸分違わぬものだった。
 それから今に至るまでの一年間に、4回彼に会ったが、私たちは毎回同じパターンをなぞった。彼の泊まるホテルのロビーで待ち合わせ、そのまま最上階で食事をする。私が泊まることは暗黙の了解となっていたが、彼は毎回、その意志があるかどうかをたずねた。私の了解を確認すると、ホテルのラウンジでお酒を飲み、ほろ酔いで部屋に戻る。
 翌日、目覚めが早い私は、先にシャワーを浴びて化粧をし、彼が起きるのを待つ。チェックアウトカウンターに付き合い、電車の改札で別れる。その瞬間から、再び電話がかかってくる日を待つ。
 1月に会った時は、純粋に喜べた。その後の4回は、別れてひとりになると、自己嫌悪に陥るようになった。
 彼は、私の身体を必要としているだけで、私を必要としていない。それがわかっていて、なぜ出かけて行くのか。彼を本当に好きなのか? あらためて自分に問いかけてみるものの、毎回、イエスともノーとも答えが出ないのだった。
 別れた直後は、今日で終わりにしよう、誘われても絶対行くまい、と誓うのだが、月日が経ち、そんな決意が薄れた頃にひょっこり電話が鳴ると、二つ返事で飛び出して行ってしまう。
 寂しいわけではない。男に飢えているわけではない。言い寄ってくる男がいないわけではない。だから、彼とつきあうメリットは?と考えても何も出てこない。誕生日に何かを買ってくれるわけでもなく、極上の愛を注いでくれるわけでもない。考えれば考えるほど、自分自身がわからなくなる。
私は、彼に「魅かれ」ているのではなく、「引かれ」ているのか? 執着しているだけなのか?

 前回会ってから、4か月以上経っている。連絡と呼べるものなのか、年明けには新年の挨拶の短いメールが届いた。でも、それだけ。
 儀礼的なメール文面を見ながら、これが、彼からの最初で最後のメールになるかもしれない、と思った。いや、自分でそう決着させるべきなのだ。2年以上、私の心は彼にとらわれていたけれど、もう終わらせるべきなのだ。
 さぁ、決意が揺るがないうちに、メールを書こう。会えば気持ちが揺れるし、情も湧いてくる。セコいやり方かもしれないが、一番賢明な方法だろう。
 最初で最後のメール。何と書き出そうか。(Fin
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