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LoveLaboratoryFAnetOnline Novels 私の恋愛ストーリー入選作品一覧
体験談筆者:グレさん
※体験談部門受賞作品は、応募作品の内容をもとに書き起こした小説として紹介してあります。Novelization:笹倉 紫
平凡に生きてきた女の子が偶然有名人と知り合い、関係を持つ。かけ離れた地位にある男性への憧憬、恋心…、彼の連絡を待ちわびる日々、苦しみながらも自分自身をしっかり見極めようと…。
イラスト/福田さかえ
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突然バイト先の店で…
 今から2年半ほど前の、梅雨が明けた頃。彼は友人に連れられて、私がバイトをしているレストランバーにやってきた。若くはない男性のふたり連れ。私はそそくさと注文をとって、すぐにビールを、しばらくしてできあがった料理を運んでいった。
「ご注文の料理です。取り分けましょうか」
 終業時間が迫っていた私は、さっさと料理を取り分けて、遅番の子に引き継ぎたいと思っていた。ところが、突然、片方の男性が、「どこで髪切ってるの?」と聞いてきた。
 私は、適当にあしらうつもりで、そこそこ名の売れているヘアーサロンの名をあげた。すると、もうひとりの彼が、「ふ〜ん」と興味ない様子でうなずいていた。
 ふたりのビールグラスが空になっていたので、おかわりをたずねると、「ああ」と答えながら、「ヘアーサロンHanaって知ってる?」と、さらに聞いてくる。「Hana」は、私の住むO市一の有名店だし、全国的にも知られているから、当然知っていた。傍らの男性が、「この人は、Hanaのオーナーなんだよ」と言った。
「Hanaって、ほんとに、あのHanaのオーナーなんですか?」
「Hanaの美容師で有名なのは、鈴木さんですよね? 彼は雑誌とかに載りまくってるけど…」
「えっ、でも顔はちゃんと覚えてないけど、ホントに鈴木さんなんですか?」
「そんなに歳がいってるように見えないんですけど、ホントにオーナーなんですか? からかってたら、マジで怒りますよ」
予想外の展開に、私は思ったことを未整理のまま吐き出した。
 信じられなかった。目の前にいる風采のあがらない男性が有名ヘアーサロンのオーナーという事実、バイト先の店でそんな大物と出会えたということ。平凡に生きてきた自分史上まれにみるビッグな出来事を、何としてもこの大物と知り合いになって後につなげてやる、と思い始めていた。
 思いがけない出来事に興奮した私は、一気にしゃべりまくり、質問しまくった。図々しい子だと、二人が不愉快になるのではないかと一瞬考えたが、私のあどけなさの残った顔が、むしろ無邪気さに見せてくれるはずだと思い直した。私の思惑は当たった。ふたりの男は、私の反応を酒の肴のように楽しみ始めた。
 他のテーブルの客を見送って、いそいそと彼らのテーブルに戻ると、「Hanaには行ったことあるの? 今度おいでよ。ボクが髪を切ってあげるよ」と、その鈴木さんが言った。
 不意のことで面食らったが、「ぜひ」と反射的に答えて、その場で予約の日時を決めた。
「受付でぼくの名前を出してくれれば、わかるようにしておくよ」と言って、鈴木さんは連れの男性とともに席を立った。いつの間にかチェックを済ませたようで、そのまま帰っていった。
 その夜は、興奮して眠れなかった。朝の明るさで少し落ち着きを取り戻すと、予約をするのに、彼は私の名前を聞かなかったことに気づいた。昨夜交わした約束のあいまいさに愕然とした。

ヘアーサロンで注目の的に
 二週間後の予約の日。行って予約が入ってなくても、それはそれで自分を笑えばいいと思い、軽い心持ちで「ヘアーサロンHana」を訪れた。
 受付で鈴木さんの紹介だと告げると、すんなり待合へ通された。予約が通っていることに安堵したものの、彼の姿は見当たらない。雑誌を手に取ることもなくじっと座って待っていると、アシスタントと名乗る女性が近づいてきて、オーナーとどういう関係なのか? 何かきっかけで今日カットすることになったのか?と矢継ぎ早に質問してくる。関係も何も、要するにナンパされたに過ぎない。それをどう説明しようかと口ごもっっていると、彼がやってきた。
 私の前に立った瞬間、胸がドキドキした。憧れの俳優と初めて対面したような、うれしくも恥ずかしいような気分になった。
「本当に来たね」
「あたりまえですよ」
という短いやりとりをすますと、シャンプー台に通された。
 洗髪を済ませ、鏡の前に座った。彼が私の髪に触れた。サロン中のスタッフが私を注目している。彼は、周りを気にすることなく軽快な手さばきで髪を梳いていった。そのとき交わした会話で、オーナー鈴木さんのプロフィールが少しわかった。
 彼は現在N.Y.移住2年目。彼の日本人顧客は芸能人や一部の関係者だけで、映画やショーの仕事のオファーがあった時だけ、日本に戻ってくる。私が訪れたこのサロンは、6年前、彼の立ち上げた「ヘアーサロンHana」の一号店。創設2年目には近隣に2号店、3号店を相次いでオープンさせ、本人は東京へ。間もなく東京にも店をオープンさせ、さらなる飛躍を求めてN.Y.へ。
 もう3年以上、彼は「Hana」で、客をとっていないという。アシスタントの女性が私に問い詰めたのも頷けるのと同時に、誇らしい気分になった。
 続いてカラー、シャンプー、ブローをしてもらって受付に戻ると、リュックサックを背負った彼が待っていた。唖然とするスタッフを背に、「行こうか」と彼に背中を押され、一緒に店を出た。
 六時を少し回った頃だった。
「飯食いに行こうよ。この辺、いい店知ってる?」と聞かれたが、すぐに返事ができなかった。店を知らないのではなく、七時からアルバイトを入れていたからだ。「また今度」と言って断ろうとも思った。しかし、今断ってしまったら、「今度」は二度と来ないかもしれない。行きつけのダイニングに案内した。彼の話は楽しかった。N.Y.のこと、映画の撮影の話。すべてが知らない世界。私は、こんなにすごい人と知り合えた幸運に酔っていた。
 そのまま流れて、バーで飲みなおす段になって初めて、お互いのフルネームを知らないことに気づき、私は苗字を、彼は俊介という名前を教え合った。携帯電話の番号も聞かれた。私は自分の番号を教えたが、彼は教えてくれなかった。厚かましいと思われるのがいやで、私からは聞かなかった。
 終電の時間が迫ってきたので、かわいい声で心をこめて、
「またお会いできれば」と告げた。彼は手帳を広げて、
「8月に帰国する予定がある。その時に、東京に遊びに来ない?」と言った。
「行きます」と即答し、手帳にその日を書き込んだ。それ以上の約束はしなかった。
「また連絡するよ」という言葉の響きに酔い、信じて、その日は別れた。

 私は、別れたあと、「彼と結婚したい」とハッキリ思った。顔は若く見えるけど、もう中年と言っていい年齢だろうし、背は低く、全体的に浅黒く、どう見積もっても、いい男ではない。それでも一緒にいて楽しい。そして何より、お金がある!
 自分から連絡する手段がない私は、彼からの連絡をひたすら待った。「きっと明日電話があるさ」と思いながら一週間。「忘れてしまったのか」と不安を抱きながら二週間。「結局その場しのぎの出任せだったのだ」とあきらめつつ三週間。「所詮、私がどうこうできる相手じゃなかったのだ」と、投げやりになりながら四週間が過ぎた。
 連絡がないまま、デカデカと手帳に『東京』と書き込んだ日がやって来た。
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