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LoveLaboratoryFAnetOnline Novels
Summer Special 2006.06.29
事故で引き裂かれた恋の行方
--30歳、香恵の場合--

Novelization/笹倉 紫 Illustration/福田さかえ

FAnetオンラインノベルは、読者から送られた体験談をもとに書き起こした小説です。
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偶然の出会いで知り合った剛に夢中になった私。でも、剛と一緒に出かけたドライブで交通事故に。私は骨折だけですんだけど、彼は重傷。事故は私のせい…と思った私は、そのまま剛のそばを離れていった。親がすすめるお見合いを繰り返し、それでもあらめがつかずにいたとき、信じられない偶然が。


7月の蒸し暑い日、地下鉄から出てきたら外はどしゃぶり。狭い出口で雨宿りもできないので、近くのビルまで走っていったら、そこで私は、どーんと背の高い男の人にぶつかってしまいました。
「あ、すみません!」
「いえ、こちらこそ。あれ? もしかして新幹線で…」
「あ、あのときの…」
男の人は、その2か月ほど前、出張帰りののぞみで隣り合わせた男性でした。そのときすごく疲れてた私は、乗ってすぐ眠り込んでしまい、知らずに彼の肩に頭をのせちゃっていたのです。気づいたのは、「そろそろ東京終点ですよ」と彼に言われたとき。私は、もう赤くなってお詫びをしたんですけど、優しく許してくれて、降りるまでの短い間、お話をしたんです。そうしたら、会社が新宿のほとんどお隣同士みたいに近くだってことがわかって、「また、会えそうですね」と言って別れました。イケメンというわけじゃないけど、とっても感じのいい人だったんです。だから、このときも、再会がすごくうれしくて。
「あのときは、本当にご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、僕は知り合いになれてラッキーって思っただけだから。でも、あれから2か月以上たってますよね。もっと早く会えると思っていたんですけどね」
「あら、私のこと、思い出したりしてくれてたんですか?」
「そりゃあ、もちろん。2時間近く肩を貸してあげた仲ですからね」
「やだ!」
「冗談ですよ。それより、このビルの地下にカフェがあったでしょう。雨が上がるまで、仕事すこしサボりませんか?」
「ええ、ぜひ!」

彼は早見剛。中堅のソフトウェア会社に勤めるシステムエンジニアで28歳。私、西山香恵は、小さな貿易商社のOL、27歳。お互いそのときフリーだったこともあって、私たちは、あっという間に恋人同士になりました。
というか、とても不思議だったんだけど、剛の話し方とか身振りとか、私にはすごくフィットしちゃって、私が夢中になったんです。出会った週末には、「うちのパソコンが動かなくなって」なんて言って、彼を私の部屋に呼んでしまい、次の週も毎晩のように仕事帰りに会って、急速に親しくなっていきました。
ただ、そろそろ夏休みという時期なのに、彼も私も仕事が忙しくて、「ほんとなら、一緒にグアムとかハワイに行きたいのに」なんて、私はぶつぶつ言ってて、彼は、「みんなが東京にいないとき、僕たちふたりだけが東京にいるのも悪くない」なんて言ってて…。
彼は徹夜の連続、私もヨーロッパやアメリカとの連絡業務なんかで残業と休日出勤。互いに疲れ果てて私の部屋に帰ってきて、そのまま何もせずに眠りこける日が多かったですね。でも、愛し合っていれば、ハワイやグアムなんか行かなくても、互いに触れあっているだけで癒されるんだなあなんて思いましたっけ。

あれはお盆休み直前の金曜日でした。テレビでは朝から高速道路の渋滞情報をやっていて、それを見てから出勤したら地下鉄も道路もガラガラ、会社のあるビルも人がまばらでエアコン効き過ぎ。
仕事中、剛からメールが来ました。「今夜、ドライブしない?」って。渋滞してる日に…って思ったけれど、土日は久しぶりに休めそうだったし、彼のクルマにまだ一度も乗ったことがなかったから、「遅くからならOK」と返信して、ちょっとワクワクしました。
結局、彼のクルマに乗れたのは、深夜の2時。剛の顔が赤くて、疲れてるんだろうなと思ったけど、「ようやく仕事から解放されたね。さあ、どこ、行こうか?」って言ってくれて。私が、どこにもいけないってぶつぶつ言ってたので、無理してドライブに誘ってくれたんだなと思いました。私は、そんな剛に甘えて、「やっぱり海がいい」と答え、剛は、「平凡だけど、伊豆かな」なんて言いながら走り出して、首都高から東名に入ったんです。深夜の割にはクルマがたくさんいたけど、まあスイスイ走れました。
私、深夜のドライブは初体験でした。暗闇の中、クルマのヘッドライトがキレイに流れて、ふたりだけで深夜ドライブするのってロマンチックですよね。
1時間ちょっと走って御殿場で高速を降りて、修善寺方向に向かいました。そのころ、「天気もいいし、キレイな夜明けが見られそうだよ」と剛が言ったので、私、「わあ、うれしい!」って、すごく期待しちゃったんです。なんか仕事疲れが高じたのか、私、とっても高揚していました。「水平線から朝日が見えてきたら、ステキだよね」って言ったりして、疲れてる剛にさらに無理させちゃったんだろうと思います。
東伊豆の海岸に沿った道路に出たあたりで、剛が、疲れたからちょっと休むといってクルマを止めたんです。でもそろそろ夜明けだったので、素敵な場所で朝日を見たいと思った私は、「朝日を見るのに、いいとこ、どこ?」って聞いてしまいました。そうしたら剛が、「あと30分ぐらいのところに、ある」って言うので、「早く、行こうよ、もう夜明けだよ」ってせかしてしまった。剛は、「うん」と言って、顔をバシッバシッと両手でたたいてから、すぐに走り出してくれたんです。
ああ、それがよくなかったんです。
だから私のせいなんです。
道は海岸線で曲がりくねっていました。あるカーブを曲がろうとしたとき、反対側から、急に、大きなトラックが見えてきたんです。ほんと、突然でした。まるで目の前にたちはだかるように見えました。「あ、やばい!」って、剛が言って、私はハッとして、もう、それからのことは、覚えていません。
気がついたら、私たちのクルマは、崖の先っぽにひっかかるように止まっていました。もう少しで崖から真っ逆さま。剛が一瞬のうちにハンドルを切ったみたいで、トラックとの衝突は避けられたけれど、私たちのクルマは、ガードレールと大きなクルマにはさまれてぺしゃんこ。
救急車のサイレンが聞こえてきて、大丈夫かと声をかけられて、タンカにのせられて…、うろ覚えですが、病院で手術を受けたのは覚えています。

幸い、私は、足の骨折と軽いむちうちだけでした。
でも、剛のほうは…。
頭を強打したせいで、1日ぐらい意識不明で、2日めには意識を取り戻したけど、危険な状態が続いていると聞きました。でも実際のところ、私は、よく知らないんです。私も3週間ぐらいベッドから離れられなかったので、田舎から来てくれた母親に看病されていて、剛のほうもお母さんがつきっきりだったとか。
私たち、まだ知り合って間もなかったので、共通の友達がひとりもいなかったんです。だから、ふたりとも動けない状態では、連絡のとりようもなかったんです。
それに、私は、もうどうしようって…。罪の意識にさいなまれていました。
だって、事故は私が疲れてる剛をせきたてたせいでしょう。私は骨折だけですんだけど、剛はずっと重傷で、命に別状はないといっても、まともに話ができるような状態ではないって話だったし。
剛に、私が、ごめんなさいと言ってたと伝えてほしい、と、母に頼んだんですが、母のほうは、「結婚前の娘を夜中に連れ出したのは、あっちのほうだ」と怒っていたんです。親同士は、初対面のときから険悪だったって、看護士さんから聞きました。
入院したのは、伊東の病院だったんですけど、剛は、私がベッドから起きあがれるようになる前に、東京の病院に移っていきました。親戚に名医がいるとかで、そこに行ってしまったんです。
私は、1か月入院して退院したんですが、母親に「まだひとりで生活できる体じゃない」と言われて、そのまま宇都宮の実家に戻りました。

実家に落ち着いてみると、なんか、夢を見ていたのかなって思いました。
雨の日に再会して、愛し合うようになって、事故に遭うまで1か月足らず。剛との日々を思い出すと、本当にあったことなのだろうかって思うほど、夢みたいに美しかった。
東京の大学に進学して、就職して9年間。剛に会うまでの私は、熱烈な恋愛することも、何かに一生懸命になることもなく、適当に働いて適当に遊んでいました。10年近くも一人暮らししていると毎日がマンネリで、そろそろ親のすすめるお見合いでもしようかなって思ってたころ、突然、剛が現れたんです。
世の中にはひとりだけ、自分と赤い糸で結ばれている人がいるっていうでしょ。剛は、まさにそういう人だと思いました。何の気負いもなく思ったことを素直に話せる。それに私は、彼の話すこと、すること、すべてにひかれてしまう。心を裸にしてどんどん近づいていくと、剛は、そんな私を丸ごと受け止めてくれる。しあわせすぎて怖いと思ったことも何度もあったんです。
だから、交通事故で剛と引き離されて、気がついてみれば、元に戻ったって感じでした。落差が激しすぎて、剛とのことは夢だと思ったほうが、納得できる気がしたんです。剛との関係って、平凡な私には、うまくいきすぎって感じがあったんですよね。だから、これ以上、欲を出したら自分が傷つくような気もしました。
ただ、あの交通事故は私のせい、という罪の意識だけは、どうしてもぬぐえませんでした。だから、いやがる母親を説得して入院先を聞いてもらい、お見舞いにいくことにしたんです。お見舞いにいく前に、自分に言い聞かせました。もう剛とのことは終わりなんだって。また元の恋人同士に戻れるなんて期待しちゃいけない、ただ、人間として、ごめんなさいを言わなくちゃいけないから、だから一度だけお見舞いに行くんだって。

剛は、東京の大きな病院に入院していました。院長さんが剛のおじさんでした。剛の家ってお金持ちだったんだって、そのとき初めて知ったんです。母親と一緒に病室に行くと、お母様がいらっしゃって、私たちが挨拶をすると、ちょっといやそうな顔をされて、「松葉杖をついていらっしゃるのに、わざわざいらしていただき、すみませんねえ」って、招かれざる客だってことが、よくわかりました。
剛は眠っていました。頭には包帯が巻かれ、腕には点滴がされていました。お母様は、「まだご挨拶できるような状態ではありませんのよ。でも、少しずつですが回復しているようで、顔色もよくなってきました」と。
私は眠っている剛を前にして、心の中で、ごめんなさい、ごめんなさいと何度も謝りました。剛はきっと聞いてくれているからって信じて。ホントは、せめて剛の手を握りたかったけれど、お母様の前ではできませんでした。
病室にいたのは数分だけでした。お母様は、詳しい病状は教えてくれず、「後遺症は残らないだろうと言われています。回復にはだいぶ時間がかかるようです」とだけ話してくれました。

私の体は、12月に入る頃には、完全に回復しました。親のすすめと東京にいると未練が残るという理由で、私は会社を退職して、年末にアパートを引き払って実家に戻りました。
そして親の言われるまま、何度もお見合いをしました。実家に戻ってからの3年間で20回以上したと思います。自分でもいいかげんに決めようって何度も思ったんですが、でも、ダメでした。いつも、最後の最後で、剛のことが思い出されるんです。それで、どうしても他の男の人と一緒になる決心ができませんでした。
親もあきれはて、自分でも、もう結婚はあきらめるしかないと思ったのが1年近く前、30歳の誕生日を迎えたときです。実家に帰ってから翻訳のアルバイトをしていたので、一生ひとりでも生きていけるように、翻訳の仕事に本格的に取り組むことにしました。
仕事先は東京の出版社。月に何度も上京するようになりました。東京に行くことは、私にとっては剛を思い出すこと。でも、幸い、出版社が東京駅近くだったので、なんとか剛のことは頭をかすめる程度ですんでいました。

2か月ほど前、翻訳する本の著者が、新宿のパークハイアットに宿泊しているので、そこで打ち合わせをするという連絡が入りました。新宿と聞いただけでドキドキしたけれど、実際の打ち合わせは滞りなく終わって、さあ、宇都宮まで帰ろうと思ったとき、でも、やっぱり私は、剛の勤めていた会社のあるビルのほうに向かってしまいました。
もう、この会社はやめているかもしれない、会えるわけない、と思いつつも、もし、もう一度会えるなら…と思いました。
30数階建てのビルを、私はずっと見上げていました。この25階に彼がいた。B1のカフェで待ち合わせをした…と、4年前の、剛とのことを、いろいろと思い出していました。
思い出に浸っているうちに、空がどんどん暗くなり、そろそろ帰らなくちゃってころ、ちょうど退社時間でした。ビルからどんどん人が出てくるようになり、ああ、この中に、剛がいたらって思った…。

神さまってホントにいるんですね。
剛とは、信じられないことの連続だったけど、このとき、ついに最高の奇跡が、私に訪れたんです。
背の高い剛の頭は、よく見えました。
何人かの同僚と一緒に話しながら出てくる剛を、私は見つけたんです。
あまりの偶然に、私は、立ちすくんでいたと思います。でも、剛のほうも、私を見つけてくれました。彼も、一瞬、目を丸くしてこちらのほうを見ていた。それから、満面の笑みをたたえて、私のほうに走ってきてくれました。心の中でずっとずっと思い描いていた剛の顔でした。
「西山香恵ちゃんですね」
「はい」
「僕に会いに?」
「はい」

うれしくて、うれしくて。剛は、4年前と全然変わらない剛でした。一瞬のうちに、醒めていた夢がまた再開したみたいでした。私には剛しかいない、剛だけが好き。ただ、それだけでした。それだけで、剛の顔をずっと見上げていました。
4年前、一緒に過ごしたのは1か月足らずだったけれど、その後の4年間なんて吹っ飛んでしまって、私は4年前の、交通事故の前の自分にワープしていました。
それまで神様なんて信じていなかったけれど、このとき、神様以外に誰に感謝すればいいかわからないもの、絶対に神様はいるんだって確信しました。
剛が言いました。
「よかったら、交通事故の前から、やり直そうか」
「うん」
「ちょっと年とったけど、僕は、何にも変わってないよ」
「私も、全然変わってない」
そのままふたりで、剛が住むマンションに行きました。私は、剛の腕をしがみつきながら、これが夢でも現実でもどっちでもいい、私は、この世界に身を任せるって思いました。
そう、それから、そのまま……、今日まで……、私は剛とずっと一緒です。

今、正直、4年前にしあわせすぎて怖いと思った以上に、しあわせすぎて怖いと思っています。でも、しあわせの反動で、これからすごい不幸が襲ってきても、もうかまわないという覚悟ができました。神様は、こんな平凡な私に、世界的大スターの女優さん以上のしあわせをくれたんですから。
剛といること、それだけが私の人生だって信じられる。私は、優秀なシステムエンジニアの剛を、二度と交通事故なんかに遭わせないように守っていけばいいんです。それが私の一生の仕事なんです。
私は、剛と神様に心からの感謝を捧げながら、これからを生きていこうと思っています。

Fin
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