FAnet FAnetとはFAnet会員登録お問い合わせサイトマップ
PS Online CanCam Online cyber Oggi Web Domani Precious BITEKI.com Muffin-Net
FAnet トップ > 恋する女の研究室 “ラブラボ”

 私の恋愛物語入選作品一覧
私の恋愛物語 体験談1位二度と会えない、大好きな人 ――パズル・パイレーツ――筆者 佐倉ななみさん

コンピュータのオンラインゲームが、ネット上でごく普通に行なわれるようになってから、どれくらいになるのだろう。私もちょっとしたことがきっかけで、やるようになったアメリカ生まれのパズル・パイレーツというゲーム。だから、このゲームでの使用言語は英語になるけれども、まさにネットに国境なしといった感じで、漫画チックなこの海賊の世界は国際色が豊かだ。
そして、ネットと言えば、“ネット恋愛”という言葉を連想する。しかし、これは自分には無縁というか、無機質な画面上のコミュニケーションだけで、どのようにして人は誰かを好きになったりできるのだろうかと、どうしても理解できないでいた。
人を好きになるということは、たとえ瞬時に恋に落ちるという場合でも、その人の容姿や表情、声などいろんな情報でもって判断するというか、
つまり、そういったプロセスが一応あるってことではないだろうか。デジタルの時代が人々の恋愛形態まで変えてしまったと、私は勝手に嘆いていた。この海賊の世界で、ディルトというキャプテンに出会うまでは‥‥。

私が海賊として誕生した海、つまりディルトに出会った海は、ヴィリジアンという多くの島がある海。時は、まだ残暑が時々感じられた去年の9月の下旬。私はクリスティンという名前で海賊デビューした。
当時、“オペラ座の怪人”を観た直後で、感動の余韻に浸っていた私は自分のキャラクターを迷わずそうネーミングした。容姿も適当に選ぶことができるが、私はクリスティンをブロンドのストレートヘアのかわいこちゃんに仕上げた。
クリスティンは、何だかゲームの要領をつかめないまま、とりあえずウェンズデールという島を歩いている。というか、私が画面上をマウスでクリックして歩かせている。島には、波止場があり、航海の旅にでるために必要とする品物を売る店や、銀行、酒場などがある。威厳たっぷりに着飾った海賊や、ボロ布をまとって裸足で歩いている貧乏そうな海賊もいる。三頭身のキャラたちは、ボロっちい格好をしていてもとりあえず可愛らしかったりする。
時々、「マリーアントワネットですか」というようなドレスを引きずりながら歩いている海賊もいて、あれでどうやって略奪の旅へとでるのだろう?と、まじめに考えたりする。なかには肩にオウムなんかをのせて、しゃなりしゃなり歩いていく海賊に出くわすと、思わず「ミズシマ〜 イッショニカエロウ〜」と言われている中井貴一を連想してしまった。
が、そんなこと思うのはこの広い海のなかで、きっと私だけに違いない。日本から参加している海賊がいるとしても、きっと学生年齢の子供たちばかりだろう。調べたわけではないけど、絶対、学生が多いと思う。ま、いいか。“ミズシマ”を知っている年齢の私が、密かにブロンドのクリスティンになっていることなんて誰も知らないのだから。

とりあえず、海賊としてのここでの生活が始まった。働かなければ、服も買えないし、酒場で一杯ってこともできない。「とにかく、仕事(パズル)だ」と波止場にある掲示板で募集中のクルーとシップを探す。何だかたくさんあってよくわからないけど、適当にクルーの名前をクリックしてみる。
仕事に雇われて乗船すると、船漕ぎ、水掻き、大砲の係りのいずれかの仕事を選ぶことになるのだが、これがひとつずつパズル式のゲームになっている。パズルを解くほどに、船がそれぞれのエネルギーを増し、途中、他の船に出会えばバトルに展開する。バトルでめでたく勝利を収めると、財宝は船員たちに分け前として渡される。
まるで、ラッセル・クロウの“マスター&コマンダー”の映画の世界の中にいるようで、私はこの可愛らしい海賊の世界がすっかり気に入った。
ランチタイムにはコンピュータの前に座って、ヴィリジアンの海にやってくるのが日課となっていき、そんなある日応募したクルーが運命の出会い、ディルト率いるオーシャンズ・ロードというクルーだった。

この頃まだヴィリジアンの海で起こることすべてが新鮮で楽しかった。オンラインゲームの醍醐味ここにあり!という感じで、私は世界中から集まってくる海賊と戯れる日々を過ごしていた。
ここでの基本的なコミュニケーションは、メッセンジャーのように主に文字によるものだけど、ディルトは顔文字を頻繁に使用して、「Ahoy」という言葉を、微笑をもって「Ahoy :)」と伝えているんだよ、と言いたいかのごとく、言葉の最後ににっこりマークの顔文字をつけて表現した。
その顔文字が英語圏の人たちが使う横向きのものだから、ディルトは日本人ではないのだろう、と想像した。今まで、メールで、日本でよく使われている縦向きの顔文字(^^)を頻繁に使っていた私にとって、ディルトが使う横顔文字が何だか印象的だった。
ところで、初めてディルトの船に初めて乗った日、このキャプテンはバトル・ナビゲーションが上手だなあと感心。だってディルトが舵をとったときは、略奪品がすごいんだもの。
この世界でのコミュニケーションに少し慣れてきたクリスティンは、「ディルト、バトル・ナビ上手だね。でも、私もう行かなきゃ」とログオフする前にそう伝えた。「ありがとう :) 」「じゃね」とクリスティン。「あ、まって」とディルト。そして、「よかったら、僕のクルーのメンバーになる? よかったら、だけど :)」

このつけ足された「よかったらだけど :)」に、ディルトの相手を思いやる優しい性格が何となく伝わってきた。
今までの航海のなかでは、ツンツンしてぶっきらぼうで挨拶もろくにしない無視型キャプテン、ちょっとパズルのスコアが落ちたりすると「海の中に放り投げるぞ」と荒々しく命令ばかりするゲームオンリー型キャプテン、かと思えば、こちらがYesかNoのシンプルな答えを聞いているというのに、非常に長ったらしい五言律詩のような文章で返してきて、ポイントがよく分からないポエティックなキャプテンなどなど、嫌な奴を挙げるときりがないくらいのなかで、ディルトの「よかったらだけど :)」には、綿飴が口の中でショワン〜と、とろけた瞬間のようなスィートさがあった。
クリスティンが迷わずオーシャンズ・ロードのフルメンバーになったとき、特別なことが起こったしるしとして口笛が高らかに響き、私はこの時、プレゼントを贈られたときのように素敵な気持ちになった。

毎日、お昼になってログインすればディルトに会える。ログインすれば、キャプテンの帽子をかぶったディルトの顔が画面上に表示されている。海のどこにいるかは知らないけど、お互いオンであればメッセージのやりとりはできる。
メッセージの送受信機能には、クルー全体、船上のみ、ある一定の指定場所のみ、パーソナルに送れるなどの設定方法があって、個人的にディルトから「海にでようか」とメッセージが届くときは、文字背景が紫色のものが届いた。
ディルトがすでに航海中で、私がログインしたときも「船においでよ」と紫色のメッセージが届いた。「OK」と私がディルト宛に返信すれば、それは水色の背景のものが表示された。紫色と水色の文字背景のやりとりに心がドキドキしたが、私は、まるでお子様レベルのこの純粋なドキドキがたまらなく気に入った。

やがて季節は12月に入り、ヴィリジアンの海の島々も雪で飾られた。この頃、ディルトはあまり航海にでなくなっていた。酒場でのゲームにこり始めていたクリスティンの私は、なぜディルトが航海にでなくなったのかということを疑問に感じとるには、まだここでの経験が浅すぎた海賊だった。
むしろ、ふと側を見ると、クリスティンの横で剣の戦いゲームをしているディルトがいることに安心を覚えた。ディルトは、黒髪に両頬に黒の髭をたくわえて、大きなぱっちりした目をしている。
キャプテンなのに、他のキャプテンのように偉そうに見える高価なジャケットを着るわけでもなく、普通の白のシャツにバーガンディ色のベスト、茶色のパンツとカジュアルに装っていた。
もっともっと、こんなことを話したい、あんなことを聞きたい、ディルトはどこに住んでいて、今、何歳なの?、気持ちは、ディルトとのいろんな会話を想像する方向に走った。
そうなると、クリスティンは既婚のおばさんでは、なんとなくよろしくないのではないか、と思い、一応、クリスティン用の職業と年齢は、22歳で大学をでたばかりで、職業はアートギャラリーで働く店員にしようか、どうせなら、ギャラリーの地下でキャンバスに向かうアーティストにしちゃおうか、などなど、自分のつく嘘に夢を膨らませたりしていた。でも、そんな嘘はついに使う必要ないままになってしまったのだ。

クリスマスも近くなった12月中旬、ディルトが突然、海に来なくなった。最初は試験勉強で忙しいのかもしれないと、クルーの仲間同士で噂したりした。それが、5日たち、1週間たち、2週間たった頃、私は仲間にディルトの不在の理由を聞きまくった。
でも、誰も知らないし、あまり気にとめていない様子。「ディルトが戻らなかったら、別のクルーに行けばいい」というのが大半のメンバーの意見だった。信じられない‥‥皆、ディルトの友達だと思っていたのに。でも、キャプテンだから、勝手に消えていなくなることはないだろう、と思い込んでいたのは、ゲームの世界をよく知らない大人の勘違いというべきかもしれない。
ここでキャプテンといっても、社会における責任がある立場とは違う。普通の男の子なら、ゲームにあきれば、立ち去るのはごく普通のことなのかもしれないのだから。それでも、私は、毎日、毎日、頻繁にログインした。
そしていつも表示されているディルトの名前がないのを見て、毎回、落胆した。クリスマスの日、「サプラーイズ!」と言って、ディルトは私たちを驚かせる魂胆でいるかもしれない、と、クリスマスの日もログインして海で待つこと数時間。でも、ディルトはついに現れなかった。どうして? こんなことなら、もっともっと紫色のメッセージを送ればよかった。もしこのままずっと会えなかったどうしよう‥‥そう想像するとすごく辛くなった。

一旦ログオフしてしまえば、つながりを失ってしまう‥‥。サイバーフレンドとはそんなものなのだろうか? 現実の世界で失恋したとしても、その人が目の前から、テレビの画面を消すように永遠に消えてしまうわけではない。
でも、ネットの世界では、ログオフと同時にまるで架空の人と同じくらい遠い人となってしまう。ディルトはもちろん彼の本名であるわけがないし、わたしだって、年齢も職業までごまかそうとまでしていたのだ。
だから、たかだかオンラインゲームで知り合った1人や2人失ったって、いいじゃないか。本当に現実の世界で会うことなんて考えられないし、どうでもいいじゃないか、たかがゲームと何度も自分に言い聞かせてみる。
でも、心が嫌だと言う。失いたくないと言う。何故そんなにこだわるのか自分でも全然わからない。しかし、そんなに悩むのなら、最初にディルトのメルアドやMSNのアドレスをもらっておけばよかったじゃないかと言われるかもしれない。
でも、ヴィリジアンの海で出会う以外の彼はディルトじゃないし、私もクリスティンではない。気持ち的にもルール違反である気がするし、海からでたところは全て、私にとってはカボチャにもどってしまった馬車も同然なのだ。

不安な気持ちのままクリスマスのホリデーシーズンは過ぎていき、現実の世界では新年を迎えた。
それからまた約1ヶ月がたったある日、ディルトの名前が表示されているではないか! 思わず「ディルト!!!!」と叫んだ。すると懐かしい紫色のメッセージが飛び込んできた。メッセージというより、文字表現によって、“ディルトはクリスティンを抱きしめています”というものだった。
思わず涙が溢れた。「会いたかったよ‥‥」だけど、どんなに画面の前でせつない顔をしても、熱く見つめても、画面の中のクリスティンの表情は何にも変わらない。どんなに“抱きしめています”というメッセージをもらっても、私は何も感じない。ディルトの手のぬくもりも、大きさも、力強さも、何にも感じることができない。
ビーチを駈けてディルトを抱きしめたい! 大声でディルトの名前を叫びたい! どんなにあなたを待っていたか、この気持ちを伝えたい! 
しかし、どんなにそう願っても、クリスティンは無表情のまま、テクテクと歩くだけなのだ。画面を隔ててここにいる私は張り裂けるような気持ちでいるというのに、現実の私の万分の一の気持ちも、画面のなかのクリスティンではディルトに伝えることができない。

「皆、今日は、お別れにきたんだ‥‥」
クルーカンバセーションのオレンジ色の文字が表示された。心臓がドキリと高鳴り、凍りついたような目でディルトのメッセージを追った。「どうして?」「勉強もしなきゃならないし、僕には、もうここに来る時間がないよ」「毎日来なくたっていいじゃないか、1時間、2時間、ちょっと寄ってけばいいじゃないか」と、同じクルーのオフィサー、プラカショ。
「クルーを運営するのに、1時間、2時間じゃ足りないよ。クルーを運営するために、僕は毎日5,6時間くらいここにいたと思う。自分の時間をとられすぎたよ」「べつにいいじゃねぇか。俺たちはそんな完璧なクルーなんて求めていないよ」「もう、決めたんだ」

この時高らかに口笛の合図がなって、シニアオフィサーのヴェッツが新たにキャプテンとして、ディルトから任命を受けたこたとが皆に知らされた。それと同時に、今までディルトがこの海で稼いできた略奪品やお金を、クルーの皆で使ってくれとがっぽりと渡された、。
「嫌よ、ディルト! おなかの中の臓器がシャッフルされているように心が痛むわ。痛いわ、何とかしてっ!」
私はオレンジ色の表示を使って叫んだ。
「僕だって痛いよ。簡単なことじゃないんだ。ごめん‥‥」とディルトが言うと、しばらく沈黙が続いた。本当に覚悟を決める時なのだと瞬時に受けとめた私は、「短い間だったけど、ありがとう。現実の生活でしっかりがんばってね」とメッセージを送るのがやっとだった。キーボードの手が震えて、それ以上のことが何もできない。

いろんなこと話したかったのに、一緒にもっと海の果てまで航海したかったのに、もう会えなくなる。どんなにログインしてもディルトに会えることはなくなる。
そして、時間がたてば、ディルトの海賊としての情報は削除され、ディルトという海賊の痕跡は、あとかたもなく消えてしまう。
新キャプテンのヴェッツに「ディルトがやっとで現れたかと思えば、こんな結末はないよね」と絶望的な気持ちで紫色のメッセージを送ったら、「それでも、ディルトを探すのに1ヶ月かかったんだぜ」と言う。
「MSNってあるじゃないか。ディルトとMSNでかつて連絡をとったことがあるっていう海賊を探し出して、ディルトのHNをゲットしてさ。それから、ポーランド語のMSNをダウンロードして、ポーランド語のMSNのなかを数週間ディルトを探し回ったのさ。全くの手探り状態だったよ。そしてやっとでビンゴだよ」というヴェッツは、オーストリアのウィーンに住むドイツ人。「ディルト、驚いてたけどさ、俺が頼んだんだよ。皆、待ってるから、せめて挨拶にだけでも来てくれって」。

ディルト‥‥ ポーランド人だったのか‥‥。私は画面を見つめている視線をなんとなく遠くの空へやった。ポーランドかあ‥‥ ポーランドだったのかあ‥‥。
遠くを見つめてボッーとしていると、紫色のメッセージが目に飛び込んできたので、あわてて画面をみると「I love you」というメッセージがあるではないか。しかし、これが事実上、ディルトからの最後のメッセージとなってしまった。そして、「クルーメンバーのディルトがログオフしました」という緑色メッセージが表示がされ、最後となってしまった瞬間が知らされた。

私はしばらくコンピュータの画面を無気力に眺めていた。何かすごい悪い夢を見た後のような、後味の悪い感覚でそこに立ち尽くしていた。
ディルトのコテージに集まっていた船員たちは、1人ログオフし、そしてまた1人ログオフし、クリスティン1人になった。
私はここに永遠にいたいと願った。玄関のところにはトールシップの絵画がかけられてあって、居間には、トーナメントなどで勝った時の勝利品が陳列されている。屋根裏にはクローゼットとベッドが置いてあった。
私はボーっとコテージのなかを部屋から部屋へと歩いていた。その時ふと、ONにしてあったラジオからせつなそうなメロディーが流れてきた。

誰かを愛しているのなら
愛している人を自由にしてあげなきゃダメだよ
本当にその人を愛しているのなら
その人がその人でいれるようにしてあげることさ

君をつなぎとめるようなことはしたくないよ
だって、僕も君も、成長するためにはそれぞれの空間が必要だからね
君の側にいることは簡単なことさ
だけど、愛することのなかで最も難しいことは、その愛をあきらめることさ

あきらめることさ

あきらめることさ

あきらめることさ

愛することのなかで最も難しいことは

あきらめることさ

鼻の内側がツーンとしびれた感じになったかと思うと、大粒の涙がボロボロと流れてきた。何というタイミングで流れてきたのだろう、この歌は!
この時、神とか守護霊とかエンジェルとか、とにかく何だかそんな存在が本当にあるんじゃないかと思ったくらいだ。そしてその時、電話がなりはじめて、こんな時だというのに私は反射的に受話器に手をのばしてしまった。
電話は友人からだった。彼女は、驚いてわけを聞いてきたので、今までゲームのことは誰にも話していなかったけど、「ゲームで出会ったキャプテンが好きだった。でも、もう会えなくなったのよ」と簡単だけど精一杯の説明をした。
「たかが子供のやるゲームに、馬鹿なんじゃないの? 現実をもっとみつめなさいよ」。友人はきっとそう言って私を叱咤するのだろう、いや、こんな馬鹿な私にはきつくはっきりと言って欲しいとさえ思った。
だけど意外にも友人が言ったことは、「きっといいキャプテンだったんだろうね。(しばらく沈黙)ハイテクだのコンピュータだのと言ってもさぁ、その中で、哀しいとか好きだとかって思えるのは、これは、人間に感情があるからなんじゃないかな‥‥。人間って素敵だよね」と言った。
私は間違っていたのか、これでよかったの全然分からなくなってしまった。感情がある人間は、素敵‥‥かぁ‥‥。

ディルトがヴィリジアンを去った後も、私はログインし続けた。ディルトがいた時と同じような気持ちではもうプレイできないのに、私は何を求めてこの海にやってきているのだろう。
世界の海賊と戯れるといったって、半年もここを訪れていれば飽きてくる。ひと通りのことを覚えた今となっては、ミッドナイトやコバルト、ハンターなど、ヴィリジアン以外の海にいったって、あまり変わりはないだろう。
ただ、どの海にも共通すること。それは、やはりどこにあっても男と女がいれば、たとえそれがゲームの世界であっても、感情的な結びつきというものが生まれるらしいということ。
クリスティンがディルトを想ったように、誰かが誰かを想っているらしいということ。なかには、ヴィリジアンの海の世界で、結婚までしてしまう海賊同士もいるようだ。おままごとのような結婚ごっごであっても、私は素直にいいなあと思う。

思えば、私が学生の頃は、環境的なことが手伝って、ボーイフレンドだのガールフレンドなど言うものなら、たちまちのうち大人たちの噂となって、妙にたたかれてしまうので、そういう気持ちはなるべくしまっておくようにしていた。
真面目と言えば、私は真面目だったのかもしれない。人の目を気にして、自由に振舞えなかったと言えばそうかもしれない。あれから何年もたって、子供をもつ年齢になってでさえも、この部分の自分は成長していなかったのかもしれない。
だから、この海にまだやってきたいと思うのは、自分を開放しきれていない何かを開放して、成長したいと願っているからかもしれない。私が過去に遣り残してきたことを、このパズル・パイレーツというネット世界で、少しでも埋めようとしているのかもしれない。
だから、ネットでつながったところの人への想像を思い切り膨らませて、自分の理想をどんどん風船のように膨らませて、しばらくはその風船を飛ばしていたいと切実に願ったのだろう。

ネットで恋愛する人、しようとしている人、ゲームや掲示板、ブログ、メールなど、それぞれ形態は違っても、きっと皆、気持ちのどこかを埋めようとしているのかもしれないのだと思う。
それで心のバランスをとったり、保とうとしているのかもしれない。ネットで埋められるのなら、それも21世紀だからこそできるひとつの方法として、受け入れていってもよいのではないだろうか。現実の世界にだって、完璧な恋愛というものはないのだから。
でもいつか、私もクリスティンという海賊に別れを告げ、ヴィリジアンの海を離れる日が来るのだろう。その時にきっと思うだろう。
「ありがとう、ディルト。私はもう大丈夫。現実の世界で、現実をみつめて生きていける。もう2度と会うことはできないけど、あなたに会えて本当によかった」。
春の風がそぞろに吹く季節には、波止場からヴィリジアンの海を眺めているクリスティンの姿がきっとあるはず。(END)

(2007/03/01)

小学館雑誌定期購読和楽庵女性セブンブックギャラリー私さがしの占星学Privacy pollicy
2007(c)Shogakukan No reproduction or republication wihtout written permission
このサーバー上のデータの著作権はすべて小学館が保有します。 掲載の記事・写真・イラスト等のすべてのコンテンツの無断複製・転載・放送等は禁じます。
Muffin-Net 収納 レシピ エッセイ2位 大賞 入選発表