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●その彼が、東京に来るのだ。
●仕事、と言ってもバドミントン部の大会参加のためだ。多くの時間があるわけでもない。しかも彼は結婚していた。子どももいる。私だって子どももいる。
●なのに私は、久しぶりの再会にときめいていた。震える手でメールを返した。
●『是非会いましょう。楽しみ!』
●返事は、
●『また前日にでも連絡するからな。楽しみにしてる。』
●次のドキドキは、日々の雑事に追われていた頃にまたやって来た。
●『東京に着いた。明日時間ある?
会おう』
●どうしよう…、夫になんて言って出かけようか…、子どもはどうしよう…。
●またセックスしてしまうのだろうか。
●一番の心配と期待はそこにあったのかもしれない。
●二人目のできない私たち夫婦。もしセックスをして、彼との間に子どもができたら?
そんな運命を背負いきれるの?
●私はそんなことまで考えていたのだ。
●「生徒の大会の引率で同僚が来る。だから会いに行く」
●夫にはそう言った。嘘はない。このドキドキを隠しているだけ。愛情をたっぷりくれる夫を、裏切るかもしれないというドキドキを。
●『8時にホテルのロビーで』というメールを交わし、私はその日、本当にドキドキしながら出かけた。
●笑顔で見送ってくれた夫と子どもに、どんな顔をして出て行けばいいのかわからなかった。電車がホテルのある駅に近づく。ホテルに入って彼の携帯に連絡する。
●大きなガラスに映る私の姿をチェックする。大丈夫、まだ大丈夫。
●そしてロビーに行くと、彼が、いた。
●バドミントン部の生徒たちも、わさわさと、いた。
●「きゃー、先生、浮気ぃ?
奥さんに言ってやろ!」
●「おう、なんとでも言え!」
●テンションの高い子どもたちが次々やって来る。
●「最終点呼が10時だから、それまでなんだけどな」と、彼が言う。
●私の今日までのドキドキなんて、一気に吹っ飛んだ。
●夫や子どもに「ごめんね」と背中で言いながら出て来た自分が可笑しくて、笑ってしまう。
●そうだよね。もうそんなこと、あるわけがない。
●私の中で張り詰めていたおかしな覚悟も吹っ飛んだ。そして私たちは「元同僚」として、仕事の悩みを聞いたり、子どもの話に花を咲かせたり、いっぱい笑って、いっぱい話をしたのだった。
●「お互い頑張ろうな!今日は会えてよかったよ」
●「うん、体に気をつけて」
●私ひとりで盛り上がった再会だったけど、楽しかった、本当に。
●主婦になって4年。こんなにドキドキしたことなんて、なかった。
●主婦だけど、また、恋がしたくなった。
●私はひとり、自分の大いなる勘違いを可笑しく思い出しながら、電車に乗って日常へと戻っていった。FIN
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