●ロンドン郊外の家庭にホームスティをしながら、語学学校に通った。周囲の環境になれるまでの2〜3ヶ月はそういう単調な毎日が続き、慣れてくると休みにロンドンやその他の郊外に足しげく出かけた。
●その日も、郊外にあるストーンヘンジという古代に作られた石造物の遺跡を観に行った。そこは、機械音声スピーカーなるものがガイド代わりに案内してくれるシステムを取っていて、私は迷わず「JAPANESE」と書かれたスピーカーを取り、足を進めようとした。しかし何をしても日本語はおろか、なにも聞こえない。
●慌てていると、「どうしたんですか?」と後ろから日本語の男性の声。振り返ると30代半ばくらいの男性が立って、心配そうに機械を覗き込んでいた。
●「なんにも音が聞こえないんです、壊れているんですかね〜?」
●そう言って私は苦笑いをした。
●「良かったら僕の使いません?」
●そう言ってその男性はスピーカーを私の方に差し出した。
●「いいですよ、あなたはどうするんですか?」
●私が断ると、
●「なら、交代で使いません? もちろんいやでなければですけど」
●私はコクリとうなずき、あたりさわりのない世間話をしながら二人で遺跡を回った。
●無事遺跡見学を終え、男性にお礼を言い、スピーカーを元の場所に戻した。すると男性は、
●「この後、なにか予定はあります?何しろ気軽な一人旅で…、なにも予定を立てずに来たものだからどこをどう回っていいやら…」
●と気恥ずかしそうに言うので、
●「私もこの1週間は学校も休みで身をもてあましていたんです。いいですよ。優秀なガイドとは言えないですけどね」
●と、私は答えた。
●「ありがとうございます」
●うれしそうに男性は言った。 |