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LoveLaboratoryFAnetOnline Novels 私の恋愛ストーリー入選作品一覧
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私の恋愛ストーリーエッセイ第2位
略奪愛〜もう一人の同じ名前の彼女〜
体験談筆者:国武明香さん
※体験談部門受賞作品は、応募作品の内容をもとに書き起こした小説として紹介してあります。Novelization:笹倉 紫
私が初めて「寝てみたい」と思ったのは、漢字も読み方も私と同じ「さやか」という名の彼女がいる男。彼女から彼を奪うのに時間はかからなかったけれど…
イラスト/福田さかえ
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「お前にハマってきた、彼女とは別れる」
私の名前は、「明香」と書いて「サヤカ」と読む。両親が「明るく、優しい子になるように」と願って名づけてくれたこの名前を、私は誇りに思っていた。陸と付き合うまでは。

私は大学を卒業して、外資系通信会社に就職した。入社して1年間は研修漬けで、右も左もわからない状態。たまに研修の合間に職場へいっても、テキストを読むだけの日々。この作業は、昼過ぎになると耐えがたいものがある。襲ってくる眠気に勝つために、私は、時々タバコを吸いに喫煙所にいった。
喫煙所、通称タバコ部屋は面白かった。たむろしている人たちは、競馬、パチンコ、安い飲み屋…、仕事以外の話をしている。外資系というスマートな響きに惹かれて就職したが、実際は普通の日本企業と変わらない。かっこいい男が多いわけでもない。普通のサラリーマンのおじさんが大半。そんなことを気づき始めた頃、私は陸と出会った。

陸は私の会社に契約社員の技術者として勤務していた。よくタバコを吸うらしく、私がタバコ部屋に行くと、よく顔を合わせた。
最初、陸は私の先輩社員と話していたが、そのうちふたりだけでも話せるようになった。彼の第一印象は、「深い目」だった。すくっとした二重で、睫毛が長い。引き込まれてしまう力のある目。そしてなにより、男のフェロモンを感じた。無骨な指や、なんとなく香る匂い。私には大学時代からつきあっている男がいたので、つきあいたいと思うほどではなかったが、彼に惹かれていった。

あるとき、陸が、
「その字でさやかって読むの、珍しいよね」
と言った。今まで何度も言われてきた言葉。でも、その後が驚いた。
「俺の彼女も、その字でさやかって読むんだ」
私は心底驚いた。この日本で、私と同じ漢字で、「さやか」と読む人、漠然とほかにもいるだろうとは思っていたが、まさかこんな近いところにいるなんて。
しかも彼もその彼女も、私も、東京近郊の同じ都市の育ちなのだ。
「へー。すごい偶然ね。同じ字で同じ読み方の人っているんだ」
と私は答えたが、この人は「さやか」という名前を呼んでその女性を抱いているんだ、という思いが頭をよぎった。そう感じた瞬間、心の奥底にあるドアの鍵が、ことり、と音をたてて数センチ開いた気がした。

私と陸が最初に寝たのは、よくある話だ。
会社の同僚との飲み会のとき、一緒にいく予定だった先輩が仕事の都合で来られなくなり、たまたまふたりだけになったのだ。その帰りに、酔ったふりをして、彼と寝た。本当にあきれるくらいよくあるパターン。
私は彼と寝たかったのだ。こんなふうに男性に対して欲望を感じたのは、初めてのことだった。
そのとき、彼の「さやか」という名の彼女のことを考えなかったわけではない。でも、この人と寝てみたい、という気持ちのほうが強かった。
「別に、彼女になりたいわけじゃないよ。 陸と一緒にいたいだけ」
私はそう言って、彼と会う回数を重ねた。そのうち、彼は、
「お前にハマッてきた。彼女とは別れる」
と言うようになった。
彼女は「さやか」、私は「さや」
彼が私の家に泊まった朝は、彼女から携帯電話にモーニングコールが届き、私の目の前で話す。そんな光景を見て、何も感じないほどの図太さはなかった。電話以外では彼女の存在を感じさせるものがなかったから、さほど気にしていなかった、と言うのが本心だ。彼女はホステスで生活時間が違うから、陸とも会う時間が少ないと聞いていたため、余計に私の頭の中から消えていた。ホステスなんて、とさげすむ気持ちがあったのも確か。
私は会社に行けば毎日、8時間以上会っている。私の方に来るに決まってる、くらい強気に考えていた。その考えは的中し、つきあい始めて、というか、最初の夜から2か月くらいたった日曜、二人でドライブに行った。
彼は湖を前にして、「彼女とは別れた。これからはお前を見ていきたい」と言って、抱きしめてくれた。
私は、最高に幸せだった。心が、紅茶に入れた角砂糖のように、ほろほろと溶けていくのを感じた。
彼が私だけのものになった、
今まで心の中にひっかかっていたもう一人の「明香」が消えた、と思った。
不思議なもので、当時はこれが「略奪愛」と呼ばれるものだとは、露ほども思わなかった。そんなことを考えている余裕もないほど、現実を過ごすのに一生懸命だったのだ。

それから私たちは、喧嘩らしい喧嘩もせずに2年ほどつきあったが、ついに上司に関係を勘づかれ、彼は他の会社に異動となった。契約社員がお客様の会社の女性社員に手を出すと、ビジネスに支障が出る、という判断だ。このころから少しずつ私たちの距離が遠くなっていった。
彼は高卒、私は大卒の外資系の大卒社員。給料も私のほうがいい。
彼にとって、私はお客様の会社の社員だから体裁が整わない。だから将来はない。つまり結婚ということにはならない――彼は、ときどきこう言って私を諭した。
私はそのとき26歳。「結婚したい」というオーラがでていたのだろう。だから彼は牽制してきたのだ。
決定的だったのは、彼が一度も私のことを「さやか」とは呼ばなかったこと。彼は私を、「さや」と呼んでいた。前の彼女は「さやか」と呼んでいたのに、私のことは、「さやか」と呼べないのかと思うとかなしくて、私はどんどん追い詰められていった。きっと私を見て、彼女のことを思い出しているときもあるのだろうと考えると、さらに落ち込んでいった。
さらに彼の仕事が忙しくなり、1週間に2回ぐらいは会っていたのが1回となり、さらに2週間に1回となった。「おかしいな」とは思ったが、仕事の忙しさを思って電話もしないで放っておいた。
クリスマス直前の土曜、私はコンサートチケットを取っていた。一番気に入っていた女性歌手。彼にもチケットを渡していたが、仕事が忙しくて休日出勤しているくらいだから行けるかどうかわからない、という返事。それでも来てくれると信じていた私だったが、隣の席は空いたまま会場のライトは暗くなり、開演。
最初の曲は、その歌手のアカペラで始まった。
「クリスマスにはどうか雪なんて降らないで……。ドアを開けると気まずそうなあなたと彼女がいた」
クリスマスイブの日に彼の部屋に行ったら、前の彼女と彼が一緒にいた、という悲しい内容の歌。私はもしかして、と思った。これまで消していた思い。でもきっと当たっていると確信した。
陸は、もうひとりの明香とヨリを戻している……。
結局、隣の席は空いたまま終演。私は家路に着いた。
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