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vol.20 2004.09.16
貢ぐ女――良美の場合
PART2 愛とお金の関係って?
Novelization/笹倉 紫  Illustration/福田さかえ
FAnetオンラインノベルは、読者から送られた体験談をもとに書き起こした小説です。あなたの投稿をお待ちしております。詳細はこちら
優しく世話してくれた男、最愛の彼に似ていた店長、私に仕送りを頼む母親…、お金にまみれた20代、でも、私の心は愛に飢えていたんだ…、と思う。
PART1より続く

そのころ、私がパチンコの常連だったことは、お話しましたよね。何もかも忘れようと行った先も、パチンコでした。
そこで、自分でもどうしようもなくバカだと思うんだけど、店員とデキちゃった。ナンパされて飲みに行ったら、すごく優しされて感激したのもあるけど、要は彼を忘れたかっただけだと思います。
そのまま、その男の家に転がり込んでしまいました。その男の家は、すごく古くて小さい一軒家で、小さな庭に雑草がぼうぼう生えていて、みじめな感じが今の私にぴったりなんて、自虐的な気分でした。
でも、この男のことは、あまりよく覚えていないんです。平凡なマンガ好きの男で、もとからそうなのか、私にぞっこんだったからか、何をしてもしなくてもいいよって感じで、とにかく優しくかった。私は、その男の家からホステスの仕事に出かけるようになったわけです。
ある日、たしか秋に入りたてのころでした。私は、親から勘当状態のまま上京していたので一度も連絡をとっていなかったのですが、ふっと電話してみようかなと思ったんです。で、怒られるのを覚悟で電話をしたら母親が、出ました。
私だってわかると、母親は突然、“助けて!”と泣き出しました。もう驚いたのなんのって。半年前にお父さんが心臓の病気で入院した、そうしたら今度は、弟がバイク事故を起こして被害者の治療費や賠償金が必要になってしまった。専業主婦の母親は、自分ではどうにもできない事態に陥っていたんです。
要はお金。詳しい事情はわからなくても、お金が必要ということはわかりました。
「いくら送ろうか」
私は聞きました。母親は、「50万円、いやできたら100万円」と言いました。私は、さらに聞きました。
「一回、100万円送れば、それでいいの?」
すると、母親は、すでに親戚に500万円の借金をしている。お父さんの治療費だけでも借金しないと足りない。加えて交通事故の被害者に渡す治療費もあるから、最低でも月に50万円は必要なんだと言います。
最初、月50万円なんて、いくらなんでも作れないと思いました。でも、ふとフーゾクやソープを思い出しました。ホステスもフーゾクもソープも、それほど違いはないんじゃないか。だったらフーゾクかソープに変われば、月50万円だって稼げるだろう…、私は、母親と電話で話しながら決心していました。
そのころの私は、ある意味、行動力がありましたね。すぐさま水商売の知り合いを伝って、効率のいいフーゾクを紹介してもらって転職しました。
私は、男に30万円を渡す生活から、少しブランクをあけただけで、月に50万円を実家に送金する生活に変わったわけです。一緒に暮らしていた男は、生活力はないけれど、事情をよく理解してくれて、精神的に安定させてくれましたね。つまり、私の収入をあてにして専業主夫になっちゃったんですけど。贅沢するわけでもないから、フーゾクの収入だけで、仕送りとふたりの生活費はなんとかなったんです。
でも、ホステスもフーゾクも同じなんてウソよね。自分も裸で客も裸。自分の裸はしかたないとしても、好きでもない男の裸は、やっぱり見たくないし、触りたくない。それでも2か月ぐらいふんばっていると、“仕事だから”という割り切りが出てきました。一緒に暮らしている男が、私のストレスを全部吸い取って、優しく世話してくれたおかげでもあるんですけど。
今は顔もよく覚えていないこの優しい男に対して、私は感謝の気持ちと申し訳なさをすごく感じています。私、この男のもとを、黙って出て行ってしまったんです。
勤め始めたフーゾク店の店長、これが、ギタリストの彼と雰囲気が似ていてね。細身の長身で、クール系で、水商売っぽいエグさが全然ない。最初からどこか意識していたと思います。相手も水商売のプロなんだから、店の女に手を出すのはタブーとわかっていたのに、私たち、すぐに肉体関係を持ってしまいました。
最初は、すごく情熱的な恋に落ちたって思いましたよ。初めてラブホテルに行ったとき、彼が、私の裸をまじまじと見て、「すごくキレイだ」って言ったんです。私の体、自慢じゃないけど日本人らしい胴長短足で、肌だってそれほどキレイじゃない。だから、お世辞いわないでよって文句言ったら、「そうじゃない。ほら、こんなにキレイなピンク色になってる。ほら、見てみろよ」って、うれしそうに、私の裸を大きな鏡に映した。
「女は感じると、肌に赤みが増す。でも、その赤みもいろいろでね。ほとんど赤くならない女もいるし、シミみたいになる女もいる。君は、全身がうっすらピンク色に染まっていて、オレが見た中でいちばんキレイなんだよ。だから男は、気持ちよく感じてくれてるんだなって、すごくうれしくなるんだ」
思いがけない言葉だったから、感激しちゃって…。ああ、そういえばって、ギタリストの彼とのセックスがよみがえってきたんです。あのころは、あんなに幸せだった。あんなセックス二度とないって思ってたけど、この人とならできるかもしれないって、久々に私はワクワクしてきた。
そのあとの私は、以前のセックスの感覚がびんびんに戻って、もう夢中。なんのてらいもなく彼をリードして、朝まで、何度もイってしまった。昔の私はリードされるほうだったけど、ギタリストの彼のおかげでいろいろなテクニックが身についていたんです。店長は、私のセックスにもうメロメロ。フーゾク店の店長のくせに、相当ウブだったのよね(笑)。
私、久しぶりに解放された思いでした。自分の中にも相手の中にも愛情を感じることができて、すごく幸せで。相手に対する愛情が胸にあふれてくる感じが、私はとっても好き。生きてるって実感がわいてくるんです。
で、その日を境に、私は、また愛に生きる女になっちゃうし、店長も、私を見る目が変わっちゃって、即座に店にバレたというわけです。ふたりともクビにはならなかったけど、チェーン店だったから場末の別々の店に左遷されてしまいました。
私が行けと言われたのは浦和。優しい男の家からは距離的に通いきれなかったので、夜逃げ同然で優しい男の家を出てしまいました。店長のほうは横浜に移されたので、ふたりで、東京のどまんなかの古ぼけたマンションを借りたんです。
前にも言ったように、この店長、雰囲気はギタリストの彼に似ていたけれど、年はずっと上で、このとき33歳。その彼は私の体に溺れているし、私のほうは、フーゾクで汚れた体を、彼への愛とセックスで浄化したいみたいに思っているから、最初はたいへんな同居生活でした。憑かれたようにセックスして、疲れ切って出勤みたいな…。なんか恥ずかしいけど、そういう時期って誰でも一度はあるんじゃないかな。普通の人なら新婚のころとか…。
ともかく、彼は、私が、実家に月50万円仕送りするためにフーゾクに入ったことを、すごくえらいと言ってて、だからそこらのフーゾクギャルとは違う、客へのサービスもビジネスライクでいいなんて、わけのわからないほめ方をしていた。彼自身、フーゾクには似合わない常識男だったんです。一緒に暮らしてみて、びっくりするほど、まともな男でした。
彼と暮らし始めて1年ぐらいたったころ、彼が、自分も店をやめるから、私にもフーゾクをやめろと言い出しました。私は、“あなたに水商売は似合わない、サラリーマンになりなよ”と言ってたくらいだから、半分はうれしかったけれど、私は仕送りがあるからムリ。母親からは毎月、お金が届いたという手紙が来てたんですけど、父は全然よくならない、弟は大学に入って授業料なんかでお金がかかるって、書いてきてました。
母親は、私がどういう仕事をしているか、うすうす気づいていたんですよ。でも、どうせ身を持ち崩した娘だからね、その分、弟に期待をつないでいた。ひどい親だよね。
彼には、「私は仕送りがあるからフーゾク続けるけど、あなたはサラリーマンになって」と言いました。彼はしぶしぶ承諾して、店長時代に少しいじったパソコンの技能を生かして、小さなIT企業に転職しました。収入は20万円近く減りましたね。
こうして彼がサラリーマン、私がフーゾクという生活を2年続けたわけですが、その間に、私、また男を養う女になっちゃいました。
月50万円の仕送りをしても、私のほうが手元に残るお金が多いんだから、しかたがない。彼は最初、自分の収入で生活費を全部出すなんて息巻いていたけど、不景気でボーナスも出ないから事実上不可能。そんなとき、私の財布の中にはそれなりのお金が残っているから、つい遣ってしまいますよね。
彼のことは責められないと思う。彼が釣り好きだって知ったら、やっぱり釣りを楽しんでほしいと思うし、そのとき自分の財布にお金があれば、これで遊んできてって、私は言いたいもの。彼だって、申し訳ないって思っても、やっぱり好きなことしたいもの。
私のほうに、男に貢ぐくせがついていたというのが、本当のところだと思うんです。“この男は私のおかげで好きな釣りに行けるし、ブランドのネクタイも買えるんだ”って思うと気分よかったもの。支配欲みたいなものですよね。そんな自分って嫌いだけど、でも、そう思ったことは事実。で、こっちがそんな気分になれば、相手だって、引き出しに入っている私のお金を勝手に持ち出しても、罪悪感を感じなくなる、そういうもんだと思います。
彼と暮らし始めて3年がすぎ、27歳になろうとしていた春。私は、ほんとうに思いがけないことがきっかけで、東京の生活から足を洗うことになりました。
彼との同棲生活も、最初の情熱的な気持ちはとっくに消えていてマンネリで、彼もフーゾクやめろと言わなくなっていました。数日前、母親から、弟が働き始めたから、もう50万はいらない、できれば月10万円送ってほしいという手紙が届き、私は肩の荷が下りた気分だった。これからどうしようかなって。
フーゾクやめてホステスに戻ろうか、それとも堅気の会社に転職しようか。でも、そうなると、フーゾクの収入でいい思いしている彼にも影響が出てくるから、かわいそうかも…なんて、迷いながら新宿の靖国通りを歩いていたんです。
歌舞町の入り口のところで、ふと前を見たら、彼がいた。そう、ギタリストの彼です。私を東京まで連れてきて、お金を貢がせて、殴って出て行った男。別れた日以来、一度も会えなかった彼が、突然、目の前に出現したんです。
ときどきは彼のこと思い出していたけれど、メジャーデビューした話も聞かなかったから、郷里へ帰ったとばかり思っていました。そんな彼が、疲れた顔をして立っていました。
「ひさしぶり」
彼は、私を見つけると、びっくりした様子もなく、そう言いました。私のほうは、驚きのあまり言葉を失って、しばらくの間、彼の顔を見つづけてしまいました。
「変わらないね、まだ東京にいたんだ」
そう彼に言われて、ようやくふつうに返答しようと思い、
「あなたもね、昔のまま」
と、心にもないことを言いました。実際の彼は、ホームレスかと思えるほど汚れた身なりで、やつれていて、私が醜いと思ったときの顔のまま、年齢分だけ老けていました。私は、これ以上、見ていたくなかった。
「急いでいるので、じゃあ」
と言って、彼の前を立ち去りました。「待って!」と、彼が呼び止めてくれるんじゃないかと少しは期待したけど、なんの声も聞こえてきませんでした。しばらく呆然と歩いていると、自然と涙があふれてきました。
私、このとき初めてわかったんです。私は、失恋したんだって…。
すべてが色あせてしまいました。今しがた別れたギタリストの彼だけではありません。彼と別れてからのすべて、フーゾクの仕事、親への仕送り、今の暮らし、何もかもどうでもいいことみたいに、遠い過去みたいに思えてきたんです。3年間一緒に暮らしてきた夫同然の彼のことも、心からふうっと消えていくような、そんな感じでした。
「帰ろう」
たぶん、神様が私に言わせた言葉だと思います。もう東京にいても何もすることはない。これ以上お金を稼いでも、今の彼と暮らしても、将来はないし、なんの喜びもない。だから帰るしかないんだよって、神様が私に教えてくれたんです。
迷いはありませんでした。そのまま家に帰り、彼に、「郷里に帰る」とだけ言って、新幹線に乗りました。サラリーマンの彼は泣いてすがってきたけど、あのときの私は、なぜか、かわいそうとも思わなかった……。
あれから、6年が立ちました。実家に帰って3年後に、いい縁談があるからと親戚のおばさんに紹介されて、今の主人と結婚。結婚してすぐに、主人の転勤で、郷里から遠く離れた今の街に移り住みました。
ありがたいことに、この街には、私が東京で何をしていたか詮索するような親戚も友人もいません。私は、短大を出て、ちょっと働き、お見合いをして結婚した平凡な主婦ということになっています。
もうすぐ、最初の子供を出産します。私が、ひとつ幸運だったと思うのは、東京での乱れた生活の中で、一度も不本意な妊娠をしなかったことです。なんだかだといって、私が貢いだ男たちは、優しい男たちだったんでしょう。私が後悔していないのは、そのせいかもしれません。
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※ご愛読ありがとうございました。体験ノベルはこれでいったん休止いたします。体験談の募集は引き続き行っておりますので、どしどしご応募ください。
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