第1章 age26 甘いカラダ(2) ― 久しぶりの再会。シュウは相変わらず私を発情させる… ―
「のあ? 今どこ? 今俺、西武の前にいるんだけど」
1年半ぶりに聴くシュウの声。そうだ、こんな声、してたっけ。
「ごめん、あと10分で着く。着いたら電話する」
「あーい」
私は右手で携帯をバッグの中に戻すとその手でリップグロスを取り出して、唇に重ね塗りしながら池袋の駅まで急ぎ足で歩いた。良かった、待ち合わせ場所に先に着いてしまうのはちょっと苦手。どの方向からシュウがやってくるか分からないから、体が一番綺麗にみえる角度を、どっちに向けて立っていればいいか迷うし、向けている目線の方向も行き場をなくして、見たくもない携帯のメール履歴なんかをじっと眺めている羽目になるし、吸いたくもないタバコに火を付けたりして、なんだか気まずい時間を持て余しちゃう。
初デートでもなければ、そもそもデートって訳でもないのに、シュウとの待ち合わせに、いつだって私は不慣れ。いつ会う時も、とても久しぶりだから、私がまだシュウのタイプの外見をしているか、シュウがまだ私好みの姿をしているか、毎回何の保障もなくて、シュウが急に太っていたり、痩せていたり、髪を切り過ぎていたりして、不細工になっていたらどうしようって、シュウの姿を確認するまでの数分間、いつも私はどうしようもなく不安になる。
この関係を続ける限り、シュウは私をセックスでイかすレベルのルックスをキープしている義務があるし、私もそう。そこに愛がないのなら、全ては外見とテクニック。シュウがずっと変わらずに、美しく、セックスの上手い男でいてくれさえいれば、私のここはいつだって、シュウの顔と指とアソコによって都合良く、綺麗に、ピタリと満たされるのだから。
池袋東口の西武の前。駅に向かう人たちと駅から出てくる人たちに、待ち合わせ中の立ち止まった人たちとでごった返したその場所で、私はシュウを見つけられずに携帯を取り出そうとしていると、後ろから私の右腰にスルリと手がまわってきて、私のすぐ左側にニヤッと笑ったシュウが立っていた。
「なによ、びっくりしたから!」
「わりぃわりぃ」
私は視界の左側で捉えた、シュウの前よりも少し伸びた黒髪の襟足と、顎の無精ヒゲ、シャープに尖った顎から頬にかけてのラインと、サングラスの下の綺麗な鼻筋、笑った時に見えた白い歯に、ホッと安心して、そしてボッと、発情した。私の腰に添えられたシュウの右手の親指にはめられたごついリングが私の骨盤に当たっている。私の目線の高さにあるシュウの日に焼けた首筋からは、プールオムの香りがほのかな汗のすっぱさと混じって夏の男の体の匂いを発してる。それは胸をドキドキ弾ませるというよりも、私の胸とお腹の間の奥の方をずしりと重くドクドクさせる。
「どこのホテル行く?」
私は聞いた。
「ハハ。のあ、相変わらずだな。俺、腹減ってるからまず飯行こうと思ってたんだけど。そんなにうずく?」
シュウはわざと意地悪く笑って、私の腰に触れていた手を下にずらしてアソコをすっと撫でた。
「もぉ、やめてよ! 分かったよ、いいよ、じゃまずご飯行こっか」
「そぉ焦んなよ」
シュウは相変わらずの大股でスタスタ歩きながら、右腕をサッと私の腰から肩にまわし、私の肩幅すべてをきつく抱いた。私はいちいち体が反応してしまうのを気づかれないようにわざとすました顔して、シュウにつられる様にして歩くスピードを上げた。
私に何の意見も求めずにシュウはファミレスへと入っていって、私の向かいにドンと座ると、メニューも見ずに早々とウェイトレスを呼んでハンバーグ定食を注文した。
「なんか、超若くない?」
嫌味でもなんでもなく、私はそんなシュウが可愛らしいと思って笑った。
「も、25なんだけどね、俺」
そう言って笑うと、シュウはサングラスを外してテーブルの上に置いた。涼しげな一重瞼に、彫りの深い顔立ち。私をイかせる、シュウの顔。クラクラする。
「のあ、どうなの? 仕事、順調?」
「まぁね、自由業だから気楽にやってるよ」
「でもさ、かっこいいよな。カメラマンなんてさ。俺覚えてるよ、初めて会った時、のあが空の写真撮ってたの。だから、なんかすげーなって思うよ、夢、叶えてんもんなぁ」
「…よく、覚えてるね」
私はそう言ってから、あの夏の日、私が写真を撮っていたのをシュウは気付いていたんだ、と驚いて、そしてほんの少し、感動してしまった。それに気付かれないように私は急いで会話を続ける。
「あ、シュウは、バイト続いてる?」
「一応ね、25でバイトってださいよな。俺、バイト先で一番年上なんだけど」
「まぁね」
「ハッキリ言うなよ」
なんのバイトしてるのか、あえて聞かずに私は笑った。
「バイトでモテんじゃないの? 一人だけお兄さんだから」
「別にモテねーよ、てか、のあだって一人だけ姉さんだったじゃん、中学から」
「ん、まーね。あの時はなんかすごく気にしてたんだよ、同級生に敬語とか使われて」
「そうなの? 俺"やべー年上だ"って、興奮したの覚えてんだけど」
「年上っていっても私16だったけどね」
「16に見えなかったよ、のあ大人っぽいから」
「今でも私大人っぽい?」
「おう!」
シュウはいかにも褒めてますって感じで得意げに言った。私は思わず吹き出した。
「バカ。私もう26だってば。年齢以上に大人っぽくてどうすんのよ。嬉しくないから」
「あぁ、わりぃわりぃ」
「シュウは全然変わらないね」
「それ、どういう意味だよ? 嬉しくねぇよ」
「あ、変わったかなぁ、15のシュウ、凄まじくギャル男だったもんね」
「ハハ」
「今は"お兄"だね、最近はそう言うらしいじゃん?」
「なんだよそれ」
そういえば、半年くらい前にシュウとメールをしていた時に、彼女ができたって言っていたっけ。
「彼女は? 上手くやってんの?」
ハンバーグとご飯を口の中に詰め込んで、モゴモゴしてるシュウに聞いた。
「う、ん、ま、普通に」
「付き合ってどれくらいだっけ?」
「半年くらいじゃん?」
「浮気した?」
「ん、どうだろ? ま、今日これからすっけど」
「やばいよね、うちら。今まで付き合ってきた人、ほとんど全員を、うちらのセックスで裏切ってるね」
シュウは皿の上の料理を全部綺麗に食べ終わると、ナイフとフォークを揃えてプレートの上に置き、グラスの中の水を飲み干すと、呟いた。
「しゃーねーよ。愛とセックスは別だわ。もう悟った」
ふーん、私はセックス側の女か、ま、そうだよね。私は言葉を飲み込んで、飲みかけのアイスコーヒーを置いてシュウと一緒に店を出た。
シュウは私と手を繋ぐと、そのままホテル街の方に足を進めた。セックスまで手を繋いで歩く私たちはきっと、セックスの後では手を繋がず、違う道をそれぞれ歩く。
「のあさぁ、いつも何の香水つけてんの?」
部屋に入るなり、シュウが私の首筋に軽くキスをしながら言った。そうだった、こんな感じだった。シュウの唇の柔らかさを敏感な部分の皮膚が思い出すと、首筋からつま先までゾクゾクッと、寒気にも似た電流のような感覚が一気に走り抜ける。私はベッドの端にガクンと腰を落とす。シュウは四つん這いになって私の体に覆いかぶさる。
「シュウと会う時は、香水は付けないよ」
「お前ってすげーそそる」
<続く>


