第3章 age16 空とシュウ(3) ― 美しい夕焼けの下、シュウと出会って… ―
屋上の端に、塀のように取り付けられたフェンスに指を絡めながら、私は少年と並んで一緒に西の空を見た。ピンク色の光が少しずつ、オレンジ色に変わってゆく。
「お前、いくつ?」
少年が私の方を見ずに、聞いた。
「16」
そう口にして見ると、初めてそれを実感した。
「ふぅん、オレの1コ上だ」
「中3?」
「うん。高1?」
「ううん、私も中3」
「ふぅん」
「な、名前は?」
「シュウ」
下の名前だったので、ちょっとドキッとした。
「私は、のあ」
「吸う?」
そう言ってシュウという名の少年は、私の方を向いて、持っていたタバコを深く吸い込んだ。どういう意味か分からなくて私が何も言えずに立ちつくしていると、私に顔を思いきり近づけて、私の半開きになった唇の中に、フゥーッと煙を入れてきた。突然口の中に苦い煙が入ってきたので、私がゲホゲホ咳き込むと、シュウは小さく笑った。
「ちゃんと空に向かって煙、吐き出せよ。そんなんじゃ雲、できねぇじゃん」
「…じゃ、もう1回して」
私が口を少し開けて、シュウの目を見ると、突然シュウは私の頭の後ろに手を回し、半開きにした唇の中に煙ではなく舌を入れて、私に深くキスをした。すぐに私はそれを受け入れるようにして瞼を閉じたのか、夕日が目を開けているには眩しすぎたのか、どちらかは分からない。ただ気付いたら私は、自分からシュウの舌に舌を絡めていた。さっきは苦いと感じたタバコの味が、シュウの舌越しには、何故か少し、甘い。
キスはどんどん激しくなっていって、シュウは私の頭から手を放すと、私の背中をガシャンとフェンスに押し付けた。私の体重と、私の体を押すシュウの力とで、フェンスが大きく揺れて、落ちるかもしれない、という恐怖から一瞬背筋がゾクッとした。だけどシュウが、スカートの中に手を入れてパンツの上からアソコを撫で始めた頃には、下に落ちるのではなくて、上に登っていくような、シュウと一緒に少しずつ空に近づいていっているような錯覚に陥った。
シュウはシャツの上から両手で私の胸に触れると、私の体をクルッと回転させて、今度は正面向きにフェンスに押し付けて、後ろから胸を鷲づかみにした。私は両手をフェンスに絡めて、地球から見える空ギリギリのところまで沈んでいる、ビルとビルの間の谷間に頭だけを覗かせた、大きなオレンジ色の太陽を見つめた。その周りには同じオレンジ色した空気がスーッと薄い層をなしていて、その上の空はもう、暗い藍色になってきた。だけどやっぱり今日の空の表情は格別に美しくて、それは私に恐怖さえ、感じさせた。シュウが後ろから私のスカートを捲り上げた瞬間、私は叫んだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
シュウの私を押し付ける手に入れた力がひるんだので、その隙に私は空に背を向けた。そして、シュウと向かい合うと、シュウは少年の顔から男の顔へと、瞳は、怒りの目から、欲情の目へと変化していて、その表情は私の女の部分を強く刺激した。溶けて、しまいそうだった。
「オレ、こんなそそる女、初めて見た」
シュウの言葉が私の溶け始めていた部分にトドメを刺すように突き刺さり、私の体はシュウの胸の上にもたれ掛かるようにグッタリしてしまった。じっとりと熱い汗が、背中を伝って流れていった。ガシャン、と私の背中がフェンスに押し付けられた、と思ったら私は太ももを片足ずつシュウの腕に抱えられ、宙に浮いていた。その間をシュウが突き上げる度に、蒸し暑さがじっとりと残る、日が沈んだ後の藍色の空気の中で、私の意識は朦朧としていった。でも、そんな中でも私は必死に、決して空を見てはいけない、と呪文の様に繰り返し思っていた。
だって、
空を見上げてしまえば、
それも今日みたいな空なら尚更、
私はまた叶いもしない願い事を
心の中で唱えてしまう。
他人なんだから、
他人として、
永遠に他人同士のまま。
そうすれば期待することもなく、裏切られることもなく、傷つくこともなく結果的には長く一緒に、いられるかも分からない。
<続く>


