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空とシュウ
SEXFRIEND SINCE 16
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コチラから → fanet@shogakukan.co.jp


前回までのあらすじ

 予備校の屋上で、のあは、シュウという少年と出会った。ふたりの距離は近づき、キスをして、セックスをする。それでも、期待をしてはいけないのだ、他人同士なのだから、と繰り返し自分に言い聞かせていた…

第4章 age17 メリークリスマス(1)― 中学を卒業し、自由になれるはずだったのあだが… ―

 暗闇の中をいくつもの雲が右から左へ、流れるようにして、泳いでいる。まるで、夜の草原を、たくさんの羊たちが移動しているみたい。私はその中にもう1匹、羊をつくるような気持ちで空にフゥーッと、タバコの白い煙を吹きつけた。煙は空には全く届かず、風にさらわれ、どこかに消えた。チカチカとリズミカルに付いたり消えたりを繰り返す、赤と緑をベースとしたイルミネーションの光が真冬の夜空を明るく照らす、クリスマスイブ。私は新宿南口で、シュウからメールが入るのを待っている。

                    ***

 中学を卒業しさえすれば、私はいろんなものから開放されるはずだった。1年という時間をたっぷりかけて、生徒の口から口へと伝えられるたびに余計な尾ひれをつけ、張本人の私でさえその情報に追いつけなくなっていった悪い噂から、そして教師たちによって私に張られた“不良”というレッテルから、私を知るすべての人間から…。そのために私は、うちの中学からの進学者が一番少ない、偏差値の高い高校に入学しようと、誰にも言わなかったけど実は、心に決めていた。だから予備校も真面目に通おうと、思っていた。そしたら高校からは、新しい気持ちでまた1からやり直せるんじゃないかって、密かに期待していた。だけどそんな私の計画は、去年の夏の日に、狂ってしまった。

 シュウを見つけてしまった私は、それから受験までの半年間、足の付かない深い海の中で溺れるように、シュウとセックスを繰り返した。予備校の屋上で、トイレで、夜の公園で、駅前のカラオケで、ほぼ毎日、私たちはヤッた。脳が溶けてしまうほどに、ヤッてヤッてヤリまくった。嫌なことをすべて、忘れられた。シュウとヤッている間だけ。だからもう、止まらなかった。シュウとヤらない日が1日でもあれば、私は勝手に火照りだしてしまう体を持て余してしまい、頭がおかしくなりそうになった。心では絶対に依存しないように、と気を張っていたぶん、私の体はドップリとシュウに、依存した。

 そうして今年の3月、私が受かった唯一の高校は、中学の隣街にある偏差値40の高校で、うちの中学からそこへ進学する16人の生徒たちと共に、私はそこに入る以外の選択肢を持たなかった。その時点で私は、3年間の高校生活のすべてを、あきらめたような気持ちになったのだけど、4月に入学して改めて、そこが世界で一番行きたくなかった高校だったということに、気が付いたのだ。

「のあ!」
 ブレザーのカチッとした肩の感触と真新しい上履きの硬さにまだ慣れず、不安定な足取りで私が入学式の会場に向かって廊下を歩いていると、後ろから背中をポンッと叩かれた。振り返ると、そこにはチェックのプリーツスカートを思い切り短くして履いた、見覚えのある顔をした茶髪のギャルが立っていた。
「アタシだよ! 優花!」
 ブレザーとワイシャツの下で私の腕は一瞬ゾクッと鳥肌を立てた。サーッと全身の血が頭から足に、降りていくのが分かった。太くまっすぐな黒髪に、同じく黒く太い眉をしていた中学生の頃の優花とはまるで別人に、高校デビューしていた優花がはしゃいだ様子で、私に言った。
「超ビックリなんだけど! うちの高校入るって噂、ホントだったんだ!」
 噂って、何だよ…。あんた、まだやるつもり? 優花の茶色に染められた剛毛を思い切り左手で掴み、同じく脱色され、細く剃られた眉の間を右手でぶん殴ってやりたい衝動に駆られたけど、その代わりに、持っていたバッグを両手でギュッと握り締めた。そして、できるだけ冷静を装って足を前に進め、すれ違い様に優花の耳元で、小さく呟いた。

「あんたのこと許してないから。もう一生、話しかけないでくれる?」
 ウエスト部分で短く調節していないスカートを膝で蹴って、私は廊下を走った。もうおしまいだ、と思った。“うちら親友だよね”と言いながら、本当に私に良くしてくれた舞の代わりに、私をこっ酷く裏切った優花がいる学校に、入ってしまったのだから。
 人生最悪の1年だと思うことで過ごし抜いた中3がやっと終わったというのに、高校はもっと最悪だなんてもう、死ぬしかないかもしれないという気持ちで、入学式の間、体育館に突っ立っていた。親にこれ以上の心配はかけてはいけないという気持ちだけが、私をそこに立たせていた。そして、その1日が終わる頃にはもう、私の1歳上の年齢と、尾ひれの付いた“私の留年の理由”、が新入生の多くに知れ渡り、1学年上の、本来私と同じ年齢の生徒たちの間では、それらの噂プラス、“先輩”である優花にタメ口をきいた、ということが話題になっているようだった。噂されることに慣れている私はすぐに、他人の空気で、目で、それが分かってしまう。

 次の日から、私はスカートをウエストで4回、クルクルと折り込み、マスカラとリップグロスをして、登校した。少しでも、生徒に、教師に気に入られようと、不良というレッテルから脱しようと、長いままのスカートで、スッピンで、入学式に臨んだ自分が空しかった。

「ね、そのグロスどこの?」
 ホームルーム終了後、私の席まで来て声をかけてきたのは、やはり今日からスカートを短くしてきた女子生徒だった。
「…あ、これ? 分かんない、コンビニで買ったやつ」
 彼女の顔を見上げると、無理やり二重にアイプチされたまぶたにノリの跡がついている。
「へぇ、可愛いね。でもそれってただ単に、のあちゃんが可愛いからかも」
 一瞬にしてげんなりしたのに気付かれないよう、私はわざと歯を見せて笑顔をつくった。嫌いなのだ。可愛い、と言われることが。シュウ以外に、特に女子にそう、言われることが。

「アタシ、ワカコ。ワカって呼んで!」
 舞みたい、と思った。舞は今頃、彼氏と同じ高校で楽しくやってるのかな。好きな男が学校にいるって、どんな感じなんだろう。男子校に入ったシュウは今、何してるんだろ。
「ね、うちのグループ入りなよ。うちら同じ中学なんだよね」
 ワカ、の目線の先には、ワカと同じように短いスカートの下に分厚いルーズソックスをはいた2人の女子がいて、キラキラした目で私を見つめていた。
「…あ、うん。ありがと」
 紺のハイソックスをはいた足を机の下に隠しながら、私はワカに言った。少し、ホッとしながら。中学の卒業式に舞からもらった長い手紙の返事は結局書けなかったのだけど、去年、私はなんだかんだで、舞が一緒にいてくれたことに相当救われたから。1人でいるのは好きだけど、集団生活の中の1人は、きつい。敵の多い檻の中では、特に。仲間がいるに越したことはない。

<続く>

六本木、金曜日、雨の深夜。ウェイトレス、キャバクラ嬢、ラジオDJ、OL、ダンサー、ネイリスト。同じ日、同じ街で6人の女は、夢に、恋に、仕事につまずいていく。それぞれの女性たちが抱く、他人に見せたくない苦しみを描いた連作短編集。


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