第4章 age17 メリークリスマス(3)― 締めつけられる想い、シュウが好きなのだろうか… ―
「今日、暇? いちゃつかね?」
3か月ぶりにシュウからメールが入ったとき、私は真夏の空の下にいた。夏休みに入ってから始めたバイト中で、新宿ALTA前でキャンペーンガールの制服を着て、コンタクトレンズのチラシを配っていた。なんて自分勝手な男なんだろう。私から会おうと誘った数通のメールは無視したくせに、自分が会いたくなれば突然、これなんだ。
コンクリートの地面と直角に位置する太陽が、私の頭の上のつむじを、ジリジリと焦がす。ブルーのサンバイザーに太陽の光を透かしながら空を見上げると、汗がダラダラ、額から頬へ降りてくる。バッカみたいに真っ青な空は、夏休みの宿題の絵日記帳に小学生が描く、嘘の空みたい。
「バイト4時に終わるから、新宿待ち合わせでいい?」
嘘のカレシに私はそう返信して、携帯を白いミニスカートのポケットにしまった。3時間後には、私はシュウと、してるんだ。そう思うだけで、心臓が突然、血液をカラダ中に猛スピードで循環させる。チラシを配る手が、「お願いします」と言う声が、少し、震えてしまう。
太陽が少し力を弱め、斜めに光を降り注ぎ、コンクリートの上に私の影を細長く伸ばし始めたころ、私はポケットから携帯を取り出して時間を確認した。なんだ、さっき見た時からまだ、6分しか経っていない。4時まであと、20分。胸の奥がドーンと重く、その中で心臓がドクドク動く。心臓を吐いてしまいたいと思うほど、ドキドキし過ぎて胸が苦しい。
あと、10分。早く、残りのチラシを配り終えなくちゃ。わざと2枚重ねたチラシを手渡した相手が、足を止めたので、私はサッと顔をあげた。あれ? シュウ?
「のあ?」
ドクッと大きな音を立てて、一瞬心臓が止まったような気がした。
「やべー、キャンギャルだ、すげぇいい」
「バーカ」
私は笑いながらも、久しぶりにみたシュウに、見とれていた。3か月前に会った時は私と同じくらいの身長だったのに、あごを少し上げなきゃ、シュウの目を見れなくなっていた。
「あとちょっとで終わるからどっかで待ってて」
バイト仲間の目線を感じて、私は早口でシュウに言った。
「じゃ、オレのあ見てよっと」
「やめてよ」と私が言う前に、シュウはスタスタと歩いていて、目の前のガードレールに腰を降ろして、タバコに火をつけた。補導されるよ、と思ったけれど、黒いTシャツに黒のハーフパンツ、コンバースの白いスニーカー姿のシュウは、16には見えなかった。
ALTAの1階から、流行りの歌が流れている。『Grateful Days』だっけ。一度、ワカにCD貸そうか、って言われたときは断ったけど、バイト代入ったら、買おうかな。背中に浴びた夕日にキラキラと縁取られながら、ラップに合わせて足でリズムをとるシュウを見ていたら、私はこの曲をどうしても手に入れたくなった。
カラオケに入って、後ろ足でドアを蹴り閉めた次の瞬間に、シュウは私をソファに押し倒した。ふと、いつの日かのワカたちの会話を思い出し、シュウはSだな、と私は思う。
「オトナっぽくなったね、のあ。16に見えねぇよ」
制服から着替えたばかりの私のショートパンツを脱がしながら、シュウが言う。
「17だよ、先月誕生日だったから」
私の声は、キャミとブラジャーを同時にずり上げて、乳首に吸いついたシュウの耳には届かない。
「あ、」
声が漏れる部屋の中には、またあの曲が、流れている。そっと目を開けると、選曲されるのを待っているTVの画面に、プロモーションビデオが流れている。
「シュウ、この曲好き?」
私のカラダの上から起き上がり、ソファに膝立ちになって財布の中からコンドームを取り出しているシュウに、私は聞いた。
「ん、好き」
「ゴム、付けるなんて初めてだね」
「ん、最近、オンナ、妊娠させちゃってさ、オレ。そっから気ぃ付けてんの」
シュウをカラダの中に感じながら私は、きつく、きつく、目を閉じる。
「う、」
シュウに突き上げられる度に、私は喘いでいるようにして泣いた。
「うぅ、」
私は更にギュッと、視界が真っ暗になるように、ギュッと、目を閉じた。
<続く>


