第4章 age17 メリークリスマス(4)― カラダだけの関係と割りきっていたはずなのに… ―
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「メリークリスマス!」
シュウの声に振り返ると、シュウが私のほうに歩いてきていた。「よぉ!」と上げた右手に挟まれたタバコの白い煙が、まっすぐ空へと伸びている。雲を、作っているのかな。シュウの目、出会ったころ、まっすぐな怒りに満ちて真っ黒だったシュウの目、今はなんだか、怒りが曇って、グレーに見える。
「今日はカラオケでヤるのヤダよ」
また、背が伸びたシュウに私は少し背伸びして、そう言った。白い息が、シュウの顔にかかる。
「なんだよ、のあ、そっこーヤる気かよ」
アハハ、と笑うシュウの白い息が、私の顔にかかる。
「オレ、のあにプレゼントあるのに」
「え?」
シュウはポケットに突っ込んでいた左手をだして、その中で握っていたものを私の手に、握らせた。手を開くと、シルバー色の小さな丸いピアス。
「あ、ありがとう、でも私、ピアスあいてないや」
「そんなの、開けりゃいいじゃん」
そう言って私の肩を抱き、大股でスタスタと歩き始めたシュウの横顔を見ると、耳たぶに2つ、シルバーの小さな輪っかのピアスが光る。高校に入ってから、シュウはなんだか、チャラチャラしている。
「のあ、オトコいないんだ? イブに暇ってことは」
シュウが、吸っていたタバコを道端に落とし、それを足で踏みつけながら私に言った。
「ん、いるよ」
「え! いんの? そいつ、いいの?」
「うん、平気。さっきまで会ってたから」
「……」
シュウは何も言わずに黙って私の肩を抱く腕に力を入れて、歌舞伎町の奥の、ホテル街のほうへと足を進めた。彼氏がいるのは、そしてイブの今日、数時間前まで会っていたのは、本当だった。1日に2人の男とヤる女だと、シュウに思われたかもしれない。でもそれは違う。私は彼氏とはまだ1度も、ヤッていない。バイト先で知り合った21歳の会社員の彼には、まだ処女だって言ってある。だからヤるのは待って欲しい、とも。夏の終わりに告白されて、彼と付き合うことにしたのは他でもない。シュウに入れ込む自分に、ブレーキをかけるため。それだけだった。
「悪い女だねぇ、のあ」
シュウが茶化すようにして、私を横目で見ながら言った。違う、という言葉を、私は飲み込む。どう違うのか、言いたくない。悪い女だと思われていた方が、まだ、ずっとマシだから。
「ここのホテル、ジャグジーあって、いいんだよね」
ピンク色のネオンが光る、ラブホテルを見上げて、シュウが言った。私とはいつもお金のかからない場所で、なのに、そっか、来たことあるんだ。でも、私の胸は、チクリと少し、痛む程度だった。カレシと呼べる男がいることが、セフレのシュウに対して、私の感情をセーブしてくれている。シュウへの依存が少しずつまた、カラダだけ、に戻りつつあることが私を心から、安心させる。
初めての朝帰りをしたクリスマスの朝。まだ眠っている両親を起こさないようにそっと自分の部屋に入り、壁にポスターを貼っていた画鋲を1つとると、それを耳たぶに思い切り突き刺した。
ジワッと滲んだ赤い血の上に、シルバーの丸がポツンと乗る。カーテンを開けると、真冬の早朝の空は、まだ黒い。
「メリークリスマス」
そっと呟いてから、私は部屋のヒーターを入れ、首に巻きつけていたマフラーをほどく。
<続く>


