第5章 age18 響き(4)― この苦しみ、悲しみを忘れさせてくれるのは… ―
その言葉は、すでにえぐれていた私の心にトドメを刺し、死ぬ前の最後の力を振り絞るような気持ちで思いきり叫んだ。
「だったらそのナイフで私の心臓刺して、私を殺せばいいじゃない!!」
おびえたような目を、一瞬私に向けてから、母はリンゴとナイフの置かれたテーブルの前で膝を抱えて、膝に顔を埋めて、とてもとても小さくなって大声で泣いた。それは、私が今まで見たなかで、いちばん傷ついている人間の姿で、それは、私を今までのどんなことよりいちばん傷つけた。いたたまれなくなった私は、リビングを飛びでて階段を駆けあがり、自分の部屋のドアを勢いよくバタンと閉めた。身投げするようにベッドに飛び込むと、布団を噛んで声を殺しながら、発狂した。階段ですれ違ったとき、私は父の視線を感じることができなかった。
すべてを失った、と思った。頭が痛くて、真っ二つに割れてしまいそうで、本当にこのまま私、死んでしまうかもしれない。
重たいまぶたをそっと開くと、白いレースのカーテンから、眩しいくらいに明るい光が部屋に差し込んでいる。まだ、お昼だ。きっとカーテンの向こうには、秋晴れの綺麗な、ライトブルーの空。
会いたい…。
会わなきゃ、
今度こそ本当に
死んでしまう。
ベッドから頭をあげると、コメカミがズキズキと痛む。私はベッドのサイドテーブルに手を伸ばし、携帯をつかんだ。
「…久しぶり。何してるの?」
「そっか、これから会えない?」
「うん、大丈夫、私今日お金出すから」
「分かった、2時半に。じゃあね」
私はゆっくりと立ち上がり、シャワーを浴びるために、階段を降りた。
「今日、のあ、なんか雰囲気違うね」
ホテルのベッドに腰掛けた私の前にしゃがんだシュウが、私の顔を見上げて言った。
「…あ、うん、目、腫れてるよね」
あぁ、泣き腫らした顔を上手くメイクで隠しきれなかった時点で、今日会うのはキャンセルすればよかった。私は後悔しながら、シュウの視線から逃げるようにして横を向いた。
「のあ、泣いた?」
「…ん、ちょっとだけね」
嘘をついた私に、なんで泣いたのかと聞く代わりに、シュウは首筋にそっと、キスをした。
「泣いてるのあって、すげぇ、セクシーだろうね」
「…バカ」
バカ。シュウの背中に私は両腕をまわす。2か月ぶりの、シュウの体。シュウの匂い。シュウのキス。動かすとまだ、ズキリと重く痛む私の頭を、シュウが優しく右手で支え、そしてゆっくり、私の体を押し倒す。バカになった涙腺から流れでた涙を隠すことも忘れて、私はシュウに夢中になる。シュウの手に洋服を脱がされた私の裸の背中にヒンヤリと、ホテルのシーツが心地よく当たる。シュウの舌を舌で感じながら、私はシュウの服のなかに両手を入れて、手の平いっぱいに感じるシュウの裸の背中の暖かさにまた、バカな私は涙を流す。シュウの舌が入ったままの口を開いて、止まらなくなった涙をぬぐうことも忘れて、私はシュウを見つめて、シュウに伝える。
「シュウ、早く」
「早く、抱いて」
私は、不良でも、悪い女でもなければ、セクシーでもないし、真面目でも、いい子でも、何でもなくて、私はただ、私なだけで…。自分で自分を見失ってしまいそうだけど、でも、今こうしてシュウに抱かれている私の体のなかに、私の心も、想いも、感情も、全てが詰まっていて、シュウがそのなかに、シュウのすべてが詰まっている体を、ほんの短い時間でも、入れてくれることで私はなんだか、救われる。
「あぁ、シュウ…」
シュウの体を体のなかに感じる瞬間、私はなにかを実感する。18、という数字の響きが、16とも17とも、違う理由と似たようななにか…。シュウが私の体の奥に響くとき、私はそれを、思い出す。
<続く>


