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空とシュウ
SEXFRIEND SINCE 16
LiLy

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『空とシュウ』への感想やご意見、作者LiLyへのメッセージを募集しています。件名に、【空とシュウ】と明記して、お送りください。
コチラから → fanet@shogakukan.co.jp


前回までのあらすじ

 三咲と里中の離婚を知ったのあ。その事実は、くまさんの存在によって安定していた、のあの心をまたヒリヒリさせはじめた。季節は冬から夏に変わり、のあの“心の中の小さなココ”はシュウにしか潤せなくなってしまっていた…。

第11章 age26 天の川(1)― のあが“天の川”に願うのは… ―

 少しばかりクーラーの効きすぎた車内で、私は自分を抱きしめるようにして両腕をさすりながら、後ろへ後ろへと流れてゆく建物たちのあいだに空を探している。電車のドアについた細長いマドに額をピタリとくっつけて。

 少しでも額を浮かすと、外の景色ではなく、自分の姿が反射して映ってしまう。目の淵にキツク引いた黒いアイラインが掠れ、唇にたっぷりと乗せたリップグロスが落ちた、26歳の私の顔は、シュウに抱かれる前よりもずいぶんと子供っぽく見える。それでも整った顔立ちはしているけれど、セックスを既に終えた後では、美しさなんて、何の意味も持たない。
 私は目を細めて、マドの向こうに空を探す。さっき、ほんの一瞬、小さな星たちがキラキラと結集した夜空が上のほうにチラッと現れたような気がしたのだけど、次の瞬間、それは背の高い建物にさえぎられてしまった。東京の夜空らしからぬ、あの星の輝きは私の錯覚かも。でも、今日はよく晴れていたから星が綺麗に見えるのかも。

 ガタンガタン、と一定のリズムで振動を刻む電車に揺られながら、私は今日、家を出たときに見上げた快晴の青空と白い入道雲を思い出した。あの時、数時間後にシュウに抱かれることを思って高鳴っていた胸は、今、安定したリズムで、トクントクンと穏やかに脈打っている。数時間前に、満たされた。ずっと乾いていたココを、たった1時間で、シュウはすっぽりと包み込むようにして、潤した。私の心は今、スーッと晴れ渡る、雲ひとつない夜空のようにすっきりしている。まだそこにあるのなら星を隠すであろう、ポコッと間抜けに浮かんでいたあの入道雲も、私がシュウに抱かれているあいだに風に流され、どこかへ消えたのだろうか。

 ドアが開き、生温かい外気を肌に感じた瞬間に、ドッと後ろから人に押されるようにして私はホームに出た。入れ違いで電車に乗り込んだ会社帰りの中年サラリーマンが、私をジロジロと見つめている。私がセックスしてきたばかりだということを、その視線に見透かされているように感じて、私はサッとそいつに背を向け、ホームを階段の方へと向かった。急ぎ足で階段を降りてから、今度は乗り換えホームへ上がる階段に、ヒールの音を響かせていると、不快な汗が、ワンピースと背中の間をツーッと流れた。
 湧きでたばかりの汗は、すぐに電車の中でまた冷やされ、黒いワンピと赤い下着と肌をピタリと貼りつけた。そしてホームに降りるとまた、ムワッと蒸し暑い空気に包まれる。バッグからSUICAの入った財布を右手で取り出して改札へ向かう途中で、うなじのあたりにジワッと浮いてきた汗を左手でぬぐった。耳のすぐ下でクルッと巻いていた髪はストレートに戻り、肩につくかつかないかのところで、ホテルの安いシャンプーの香りをさせている。早く家に戻って頭から冷たいシャワーを浴びたい、と思いながら、改札を抜けて視線を上げると、時計台の横にくくりつけられた大きな笹の葉が、色とりどりの短冊をつけて揺れていた。
 今日、七夕だったんだ…。ふと足を止めると、赤い紙に黒いマーカで書かれた達筆な文字がくっきりと目に写った。

「この人と、永遠に続きますように」

 その人が、隣にいる時に書いたのかな。それとも、心の中でその人を想って"この人"と呼んでいるのかな。どちらにせよ、"この人"は、これを書いた人にとって、とてもとても近いところにいる愛おしい存在なのだろう。でも、この願いを、織姫と彦星はどう思うかな。自分たちだって、ずっと一緒にいたかったのに、年に一度会えるか会えないかという悲しい運命を背負ってしまった空の上のカップルは、こんな贅沢な願いを叶えてあげるほど優しいだろうか。

「あの人と、終わりますように」

 私は心の中でそっとつぶやいた。声にせずとも、そう言葉にしてみて、私が本当にそれを望んでいることに気がついた。シュウと、離れたい。いつか、できるなら今すぐにでも、私たちのあいだの縁がぷっつりと切れたらいい。
 セックスの後で、「こんなにも長いあいだ、つかず離れずの関係はおまえだけだから、もしかしたら俺たちは、前世で何かあったのかもしれない」と、シュウはぼんやり、タバコの煙を吐き出しながらつぶやいた。その時、私がその言葉に頷いてしまったのは、私がまだ裸のままシュウの隣に座っていて、体の中に重たく残るシュウの余韻に酔っていたからだ。
 それからたった数時間でお互い他人へと戻り、シュウのいない人生の中で今、この関係を冷静に考えると、私たちはなんて身勝手なのだろうとうんざりする。自分たちのワガママな意思で、年に一度会うか会わないかの関係を続けている私とシュウを、どんなに会いたくても年に一度会えるか会えないかのカップルが、許すはずがないと思う。だからこそ、この願いは、叶えてくれるかもしれない。

 駅を出ると、夜空の彼方に、天の川。思わず私は目を細めて遠くを見た。神さまが、細かいビーズがたっぷりと入ったビンを斜めに持って、左右に揺すりながら、サラサラとビーズを落としていったように、藍色の空の上では、いくつもの白い光の粒が、飛び散りながらも川のかたちを描いている。電車の中から一瞬見えた星たちは、錯覚なんかじゃなかったんだ。顎をあげ、星空を見上げながら歩いていると、生温かい風が頬に当たる。

「この人に、会いたいな」

<続く>

六本木、金曜日、雨の深夜。ウェイトレス、キャバクラ嬢、ラジオDJ、OL、ダンサー、ネイリスト。同じ日、同じ街で6人の女は、夢に、恋に、仕事につまずいていく。それぞれの女性たちが抱く、他人に見せたくない苦しみを描いた連作短編集。


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