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空とシュウ
SEXFRIEND SINCE 16
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『空とシュウ』への感想やご意見、作者LiLyへのメッセージを募集しています。件名に、【空とシュウ】と明記して、お送りください。
コチラから → fanet@shogakukan.co.jp


前回までのあらすじ

 久しぶりにシュウと会った直後、シュウのメールアドレスが変更されていた。わりきった付き合いをしていたはずなのに、やはり心乱される、のあ。足早に帰宅すると、家にはくまさんが来ていた。罪悪感からか、落ち着かない…。

第11章 age26 天の川(4)― シュウと会った日、駅でみた“あれ”は… ―

 スエット生地のハーフパンツとコットンの白いキャミソールに着替え、濡れた髪をバスタオルに包んで頭にキュッと巻きつけた。バスルームのドアを開けると、シャワーの水滴がまだ残った私の肌に、エアコンされた室内の空気は寒いくらいだった。ジュウジュウと何かを炒める音と共に、キッチンからスパイシーな香りが漂ってくる。カレー? でもさっき彼は、パスタを作っていると言っていた。
 メニューが気になると、急に、空腹感を感じた。そういえば今日1日、まだ何も食べていなかった。シュウと会う前はいつも、私は食欲を忘れてしまう。

「美味しそうな匂い! 何つくってるの?」
 私の部屋の小さなキッチンに立つ、くまさんの大きな背中を見ながら聞いた。そして、愛おしいその姿に寄り添うようにして、私はフライパンの中を覗き込む。カレー粉の香りが鼻先をくすぐった。そこには、鶏肉、ピーマン、玉ねぎが、みじん切りされたニンニクとショウガと共に、こんがりと焼き色をつけて炒められている。くまさんがその中に、ココナッツミルクを流し込んだ。そして私のほうに振り返り、「ココナッツカレーパスタだよ」と得意げな笑顔を見せる。私は、はぁ、と感嘆のため息をつく。

「すごい! 私はそんなオシャレなメニュー作れないよ」
 くまさんは、ナンプラーと砂糖をパパッと加えてかき混ぜながら、アハハと笑う。
「食いしん坊なだけだよ。のあの和食も美味しいよ」
「和食っていったって、私は朝ごはんしか作ったことないじゃない。それに、それ、わざわざ買ってきてくれたんでしょ?」
「あぁ、ナンプラーね。あると便利だよ。ワインも買ってきたから、冷蔵庫から出してくれる? 赤にしたけど、平気かな?」
「平気というより、完璧だってば!」
「そうかな?」と照れ笑いしながら、くまさんはフライパンの中にパスタを入れ、ココナッツカレーをさっと絡めてから、2枚のお皿に手際よく盛り付けた。
 彼は、本当に料理が上手い。うちにくる時はよくこうして晩御飯をつくってくれる。雑誌から漫画に部署が移ってから、以前よりはだいぶ時間に余裕ができた、と彼は喜んでいる。『Blue』にいた時はプライベートなんてあってないようなものだったから、と。だけど本当はやはり、辛いのかもしれない。編集を離れたあとも、彼が毎月必ず『Blue』を隅から隅まで読んでいるのを見るたびに、私は胸が痛くなる。だけど、心の中に開いたその隙間を埋めるようにして、彼が私をますます愛してくれるようになったとも感じている。

 私は冷蔵庫を開けて、既にサラダの入ったボウルが出ているテーブルに、程よく冷えたキャンティのボトルを置いた。ワイングラスを2つ手に持ったくまさんがイスに座り、「さぁ、食べよう食べよう」と、ワインオープナーを取り出すために棚の引き出しを開けている私を急かす。

 彼は、本当に食いしん坊。そんな彼が可愛くて、私はクスッと笑った。オープナーを手に取って引き出しを閉めると、胸が急にドスンと重たくなった。もう二度と、彼を裏切るような真似はしてはいけない。私は彼に背を向けたまま、下唇をキュッと噛み締めた。

「あー、私、お腹ペコペコだよ」
 心の重みをごまかすように明るく言いながら、私は彼と向き合って席に着いた。既に手にフォークを持って待っていた彼を見たら、また、胸から愛おしさがこみ上げてくる。
彼がポンッとコルクを抜き、私がグラスにワインを注いだ。そして、コツンとお互いのグラスを合わせる。そして、「いただきます」と二人で声を揃えた。
「今日の乾杯は、何を祝うことにしようか?」
 くまさんが、さっそくフォークにパスタを巻きつけながら聞いた。でも、私は、グラスを手に持ったまま、彼から目線を反らしてしまった。
 二人で食事をする時、私たちはいつも何に対して乾杯するかを決めることにしている。天気予報が外れて雨が降らなかったことに、とか、彼が担当している漫画家さんが締め切りを守ってくれたことに、とか、私の写真が思ったよりも大きく雑誌に掲載されたことに、とか。お互いの1日を報告し合う、という意味も込めて、二人でその日あったことを話し合い、一番嬉しいニュースに、二人で乾杯するのだ。
 今日、私は貴方を裏切ってしまった。その事実の重さに、私がグラスに口をつけることもできずにいると、
「美味いっ!」
 彼は私の様子に気づくことなく、目を三日月みたいに細めて、口いっぱいにパスタを頬張っている。私はワインを一口飲んでから、彼に微笑みかけた。
「今日、七夕なんだよ。知ってた?」
 口をもぐもぐさせながら、彼が答える。
「知っているさ。今年は、短冊まで書いてしまったよ」
「本当に? 会社で?」
「いや、久しぶりに電車で帰ってきたら駅に笹があって、自由に書けるように短冊も置いてあったんだ」

 目から、涙がポトポト、テーブルに落ちていた。私は慌てて頭に巻いていたバスタオルを取って、それで泣き顔を隠した。
「どうした?」
 彼の驚いた声に、余計に涙が溢れ出す。泣き声を殺そうとすると、肩が上下に激しく震える。だって、だって、

<続く>

※次回は2008年8月18日(月)に掲載します。

六本木、金曜日、雨の深夜。ウェイトレス、キャバクラ嬢、ラジオDJ、OL、ダンサー、ネイリスト。同じ日、同じ街で6人の女は、夢に、恋に、仕事につまずいていく。それぞれの女性たちが抱く、他人に見せたくない苦しみを描いた連作短編集。


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